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(……それって、やっぱ我慢させてるってことになンのか?)
組んでいた腕を解いて鏡に背を向け、ゆっくりと歩き出す。
俺は対等、できれば俺のほうが多めに、相手に心を砕いたりなにかしたりしたいタイプである。
けれど俺と三初だと、年齢とガタイだけが多めで、あとはボロ負けのコールドゲームだ。延長なし。
そして、考えた。
バレンタインの時、俺が思ったのは〝俺の体が気に入ってんなら、もっと上手くなって、それで満足させられるようになんのも辞さねぇぞ〟だ。
三初は、俺が俺でただの三初を叱りながら受け入れ続けてくれればいい、と言ったけどそれはそれ。
そういう当たり前のことではなく、もっとスペシャルな気持ちを与えたい。
特に俺は口が悪くて態度も悪く、デリカシーもなくて察しも悪い、素直にもなれない意固地な恋愛弱者なのだ。
俺は三初が、まぁ、その、なんだ……す、好き、だからよ。マジで悔しいけど。
俺を選んでよかったと思わせるには、相手に刺さる努力は必須だろ?
けれど俺が性技を磨こうと考えた矢先に、あのマンネリ疑惑である。
おかげで俺は思いがけず焦ることになり、間森マネージャーゲス野郎にあわや食い物にされるところだ。
迷惑もかけたし、優しくもしてもらった。
三初は素面で甘いことを言ったり優しくするのが性分的に不可能病を患っているのに、昨日は怒りやらの感情を抑えて甘やかしてもくれたんだ。
貰ってばかりではいけない。うん。まぁ、我慢させるのは体に悪いだろ。
将来老老介護になる可能性が高い同性カップルとしても、相方にゃあ健康的に生きてもらわねぇと。
「よし、三初ェッ」
ブツブツと考えをまとめながら歩いた俺は、ベッドに腰掛ける三初の前に到着し、ガオウッ! と気迫で食いかかった。
ちなみに頭痛に響くと困るので勢いだけで、声はやや大きい程度である。
「なんですか。牙むき出しのシェパードみたいな顔して」
膝に腕を置いてだらりと座っていた三初は、めんどくさそうに顔を上げて仁王立ちの俺を見つめた。
その顔を潰さないようにギュッと抱きしめ、頭をなでる。
それはもう、ワサワサとなでる。
「なにしてんの?」
「オラ。どこにでも傷つけていいから、お前、俺をイジメろよ」
「なに言ってんの?」
遠慮すんな、と言うと、三初は俺の背中を指で一気になぞり上げた。
俺はぞぞぞぞ……っ、と背筋がうねり、飛び上がって三初を解放する。
なにしやがんだコノヤロウ。
「これでどうやって飽きればいいんだかね……」
「ク、クソ、俺が素面で正面から抱きつくっつぅのは、結構な心構えがいったってのに……ッ」
「やーすでにイタイ人追加で虐めるとか、可哀想すぎますよ。ほら頭も可哀想。社会的に傷だらけですよね。流石の俺もこれ以上傷つけられないわー」
「誰がメンタル抉れっつったコラ」
ベショ、と床に手をつき悔しさに打ち震えるも粗雑な返答だけが投げられ、へそが曲がって座り込んだ。
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