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 後はかんたんだ。  マスクを被って俺の元へ行き、経緯の真偽を問いただし、ついでにお仕置きをする。  だから、ついでのレベルが苛烈なんだよコノヤロウ。  マジでコイツは精神を抉る言葉の吐き方がうますぎるんだ。  俺が眠ってからは、俺の体を綺麗にして、治療し、監視カメラを確認して間森マネージャーを脅せる証拠を手に入れる。  おかげで間森マネージャーは三初を本気で怒らせることはできなくなった。  俺に手出しもできない。  そういう約束で誓約書まで書かせたらしい。暴君すぎて言葉も出ねぇ。  こうして、ことは一件落着。 「はー……疲れた。俺が撒いた種だから片付けましたが、金輪際男の〝なにもしないから〟は信じないでください」  ジト目で視線をやる三初に、頭が上がらなくなった俺である。 「サドでもマゾでもどうでもいいんで、アホ犬ちまきはさっさと中身出して肩でも揉んでくださいよ」 「う……わ、悪かったって」 「聞き飽きたなー」  白々しい声を出す三初に、俺は布団の皮から出てそーっと肩に手を伸ばす。  すると本気でするなと言われ、とりあえず服を着て、ふらつく体を起こし身支度を整えることにした。  顔を洗って歯を磨き、髭をそって髪に櫛を通す。  手首を見るとテーピングがされていて、ケツはまだ違和感があるが、痛みはなかった。  背中もヒリヒリとはしたけれど、湿布が貼られていたので、しばらくすれば治るだろう。  鏡を見ると、昨日はあんなにグズグズだった顔が、心做しか嬉しげに緩んでいるように思えた。  いつもシワが寄った眉間も、深さが浅い気がする。眼光は相変わらずで、への字口も相変わらずだが。  理由は多分昨夜の三初のセリフだろう。  ムカつく言い方だったが、あれがあいつの〝俺だけで十分〟なのだ。 「そうだよな……人様を傷つけようってなら、結構かんたんに傷ついちまうンだな……」  緩みそうな頬を引っ張り、引き締める。  昨日、拘束されただけでも跡がついた。  ナイフでも這わされれば、傷はいくらでもつけられる。なんの証にもなりやしない。  誰でもかんたんにつけられるなら、気持ちがなくてもつけられる。 (そう思うと……普段あれだけ虐められているのに結局傷跡が残ってない俺は、物凄く貴重な体験をしてるんじゃねぇか?)  腕を組んで、鏡を前に思案顔。  三初は確かにサディスト(まぁ本人は否定するけどな)だが、俺をほぼ傷つけずに、思うとおりに調教するのだ。  蚯蚓脹れ程度なら幾度かあるが、すぐに治るような一時的なものばかりだろう。  血を見るような傷はない。ケツを裂かれたことはないのだ。  なら、思うとおりにしているから結局は忌憚ない行為を楽しんでいるんだろうが、どうも腑に落ちない。  そっちのほうが技術が必要で、めんどうだろうに、あいつは俺に対して手間暇をかける。

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