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◇
パチ、と目を開き、昨日の記憶が蘇る俺は、反射的にガバリと勢いよく起き上がる。
けれどすぐに頭痛と目眩がして、体の倦怠感に従い、元通りに枕へと倒れ込んだ。
(くそ、頭いてぇ……昨日より悪化してやがる……本当に合法的な薬だったのか……?)
ボヤリとした視界には記憶通りのSMルームが朝日に照らされていて、ここがどこだかを鮮明に思い出させる。
現実逃避をかねてもう少しだけ眠ろう、と枕に頬を擦り寄せると、頭にベシッと手が置かれた。
「った……な、ん……?」
「二度寝厳禁。足痛いからさっさと起きてください」
「へ……?」
頭を叩いた犯人は昨日泣きついた三初であり、そして俺の枕でもあったらしい。
どうして俺の枕が三初なのか、については、昨日の段階でわかっている。
おそらくあのまま眠ったのだろう。
決まりが悪くなった俺は、のろのろと体を起こし、丸くなって逆方向へころんと転がった。戦略的撤退ともいう。
そうして丸くなった俺を再度ベシッ、と叩いて、三初は俺が眠っている間に起こったことを含め、いろいろと説明し始める。
三初から見た、昨日のことだ。
三初は俺が日曜日の連絡をしないものだから、交通手段をなくしたか、なにかあったのだと思い、迎えがいるかメッセージを送ったらしい。
これは多分間森マネージャーが来たせいで確認できなかった、あのメッセージだろう。
俺は丸くなったまま言い訳をするのはあれなので、布団を被ってチマキのように包まれつつ、経緯を説明する。
呆れた三初は俺のスマホを弄ってクラウド監視ツールをインストールし、無言で小首を傾げた。
俺は黙って頷く。
かなり渋面だったが、実際三初が来なければ俺は間森マネージャーにハメ撮りを撮られていたのだ。
逆らうことはできない。
……昨日はめちゃくちゃ暴君判定甘かったのに、本気で昨日だけの優しさだったのかよ。
いやまぁ、俺も三初以外の前ではあんなあっさりと泣かねぇけども。
思い出したら死にたくなってきた。
三十路目前男が年下の恋人に甘えきってぐずるなんて、視界の暴力でしかない。
ちまきの皮の中に埋まって羞恥心で悶絶する俺を、三初は鼻で笑う。コノヤロウ。
ついでになにを思ったか、カップルアプリもインストールされた。
曰く「ここに先輩の予定入れといてください。俺は誰彼と出かけるのを止めませんが……ここで隠し事して虚偽申告したら、次は本気でこの部屋の器具全部使いますよ」ということだ。
いや、ということだって、どういうことだ。ゴホン。まあいいか。
とにかく俺は三初に外出の予定を把握され、いざと言う時はGPSで場所を把握されるということである。
三初はメッセージを既読にしない俺を案じて、冬賀に居場所を聞いて、迎えに来た。
そしてマスターであるナーコに事情を説明し、情と顔に訴え、監視カメラの閲覧許可と部屋に乗り込む権利をゲット。
ちょうどいいところに間森マネージャーが現れたものだから、廊下で奇襲をかけて緊縛し、隣の病室ルームに詰め込んだ。
そして変声マスクを奪い、恥ずかしい格好にさせて免許証と共に写真を撮った。
間森マネージャーは俺を三初の恋人と知って暴挙に出たので、出るところに出られれば自分の悪行もバレる。
とりあえず経緯をゲロッて許しを乞うてきたが、その顔は恍惚としていたらしい。
思いっきり蹴ったと言っていた。
ついでに顔面を踏んで股間も蹴り、関節を外したそうだ。
ついでのレベルじゃない。
朝ハメておいたとしれっと言われる。
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