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「ほら、ほら。よーしよし。いいこ。泣かないで。先輩、ほら」 「っく……ぅ……っ」 「間森マネージャーは二度と手出しできないようにしておきましたから、ね。よしよし、御割犬は頑張りましたね」 「はっ……お、おれはみはじめ、だけで、手一杯だ……」 「解読すると、俺だけで十分、ってことね。わかるわかる。浮気じゃねぇのね。いいこ。先輩はアホなのに、頑張った頑張った」 「アホじゃ、ね……っ」  ズズ、と鼻をすする。  ひたすらに褒める慰め方はずいぶん投げやりにも思えたが、三初を知る俺には、それがなけなしの優しさだとわかった。  お陰様で心が震え、トク、と鼓動する。  らしくない気遣いが心地よく、プライドを捨てて甘えたくなってしまう。三初が、好きだから。 「……あいつ、ひでぇよ、ぅう……痛かったし……ぜ、ぜってぇ、殴る……」 「はいはい。今後あーいうのが現れたら、逐一潰してあげますから。あんたは泣かない。戦わない。……ちょっとそのまま、ね」 「ぐ……」  とつとつと語ると、三初は俺の伏せた頭を押さえ、顔をあげられないようにした。  手首についた擦り傷をなで、蚯蚓脹れが凹凸を生み、赤く染まった背中に冷たい手が触れる。 「俺はあんたにあんま傷つけないよう、してたのに……他にルールを破られると、笑えるくらいムカつくんですよ」  相変わらず、そんな大事な感情でも、なんでもないように話す。  くつろぎながらペットを愛でるように頭をなでられると、俺はマルイやナガイと同じく、三初に飼われているのかと錯覚した。  でも俺は、それだと納得できない。  首輪がなくても自分の意思で三初と付き合っているからこそ、与えられているものを対等に返したいと思ってしまう。  黙って頭を膝に擦り付けると、クス、と頭の上で笑い声が聞こえた。 「ま、正直飽きるかなとか、飽きられるかなとか、思ってないことはなかったですけどね」 「っ……ん……」 「今、わかったわ。俺はもしかしたら未来で先輩に飽きるかもしれないけど……飽きたとしても、絶対に手放さないですね」  やっぱり、当たり前のような言い方だ。  なんでもない日常の思いつきと同じ。 「だって、先輩は俺の恋人(オモチャ)でしょ? ずーっと夢中で、つまんねぇな、って笑いながら遊んでやりますよ」  そう言った三初が頭を押えていた手を離したから、そっと顔を上げる。  ニンマリと人を食ったような笑みを浮かべている三初だが、顔を近づけ、唇にキスをされた。 「ん……」 「天邪鬼だけど、あんたへの気持ちに嘘は吐かないんで、覚えててください。……これでも、先輩は特別なんですよ」  ──つまりお前の言い分は、お前は俺に夢中で、飽きても笑って遊び続けるし、口で言うことは当てにならないってことか。  理解して、咀嚼して、胸の奥がジンとした。  俺は悪いことをしたのに、三初は本当に珍しくずっと優しくしてくれたので、気がついたら俺の意識は夢の中に落ちていたのだ。  暴君らしいセリフであっさりと安寧を得るなんて、お手軽な俺である。  それでも、今日のキスはとびきり優しくて、素直なものだった。  ─────────────  マルイ、ナガイ、オワリ←NEW!

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