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気だるい体をヒョイと抱き抱えられ、俺は赤いシーツが敷かれたダブルのベッドに乗せられた。
心身ともに疲弊したのと、薬のせいで、間森マネージャーが言ったとおり、ずっと思考が半端にぼやけている。
「俺、言葉足らずの天邪鬼なんで、お話しましょ?」
そう言った三初がベッドサイドから斜めに乗り上げ、靴を脱いで足先が出るくらいに腰掛けた。
中央に降ろされた俺はそれでは遠くて、のたのたと黙って這いより、様子を伺う。
すると片手を広げられたから、おずおずと腕をのばし、腰に抱きついた。いわゆる膝枕に近い状態だ。
「薬ね。体に合わなきゃ、夏バテ程度にはダルくなると思いますが、どう? 頭痛いかな? 甘えていいよ。今日だけ特別に、俺はとびきり優しいからね」
「う……力、うまくはいんね……みはじめ……」
「はいはい。俺がひっつくからダイジョブ」
しっかりと抱きつきたいが力が入らずごねると、三初は頭を抱いてくれた。
かなり恥ずかしくて柄じゃないはずなのに、一度安堵で意地が崩れると、もううまく取り繕えない。
いくらかの回線が麻痺した俺は、副作用で力が入らない腕を三初に巻き付け、せめて顔を伏せた。
「俺はね、先輩がアホで油断して丸め込まれて、好きで脱いだんだろうってね。進んで繋がれてると思ったわけです。SMに興味持つとか、マンネリ化して、俺だけだと物足りないからお勉強しに行ったってさ」
淡々と、日常的に語られる思考。
それは俺が思っていたことと違うことだ。
俺は三初が俺に物足りなくなってそれを我慢していると思っていたのに、三初は俺の行動と姿を見て、自分じゃ満足できなくなったのかと早とちりをした。
今の冷静な姿からは信じられないが、三初も俺のように焦ったのだろうか。
「マンネリ解消って言えば聞こえはいいですが、俺がそれ見てどう思うか、なんもわかってないから……まぁ、つい虐めちゃったんですよね」
次いで「でもあんたの性格思えば、そんなことないってわかるんですが、うっかり」と付け足され、押さえつけた涙が再度込み上げてきた。
俺は確かに、他の男に恋人を弄ばれた三初の気持ちをわかっていない。
けれど俺は本気で抵抗したし、決して折れないよう踏ん張っていた。
俺なりにきちんと意地を張ったのに。
「ぅ……おれ、ふ、服脱がねって、触んのも、なしって……ホントに、嫌だって言ったんだ、よ……うぅ……」
「あーね。先輩は騙されちゃって、約束破られたのね」
「やり方、お、教えてくれる、て、っふ……ちくしょ……っゲホッ……」
「泣かんでって。俺それ好きくないんですけど。……言わんこっちゃないなぁ……」
俺の言い訳を聞く三初は、もう涙は流していないのに窘める。
目と鼻を真っ赤にして涙を我慢しているだけでも、許せないようだ。
「年上ってめんどくせ……全然頼らねぇわ。普通に聞いて、そゆこと。俺は言えないのが悪いとこだけど、あんたは聞けないのが悪いとこですよ」
「ぃ、ひ」
ビシッ、と手痛いデコピンをお見舞いされて、俺はますます顔を伏せ悪かったと謝り、ごめん寝状態になってしまう。
すると三初は俺の頭をなで、手つきだけは優しく慰めた。
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