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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
五月の頭になると、土日を含めてなかなかの一大イベントがある。
その名もゴールデンウィーク。
このゴールデンウィーク限定のキャンペーンを打つ企業も数多くあるため、食品会社であるうちも、法人向けのノベルティ作成を請け負っている。
例えばどこそこのイベントに行くと、来場者に会場限定パッケージのトポスプレゼント、とか。
例えばゴールデンウィークの旅行でこちらの航空会社を選ぶと、到着時にお子様へお菓子セットプレゼント、とかだ。
その限定パッケージやらセット内容やらをクライアントと企画がすり合わせ、作成。
菓子自体は既にあるので、割と直ぐにレッツゴールデンウィークとなる。
数ヶ月先はざら。
なんなら半年先でもあるあるな企画課だ。
このノベルティ依頼は短期なので、まだ流行り廃りを気にしなくていい、素敵な仕事と言える。
ただ一つ。物凄く。物ッ凄く。
お菓子が食いたくなる以外は、だ。
「やっぱトポスはカスタードクリームが一番うめぇ」
「んー……俺はティラミスムースがまだマシかな」
「いや、お前ほぼバリッツのサラダしか食ってねぇだろうが」
さて、こちらゴールデンウィーク初日の俺の部屋である。
リビングにてコメディ映画を上映しながら、テーブルいっぱいに自社や他社のお菓子を並べ、お菓子パーティ中なのだ。
ゴールデンウィークの初日にいい大人がなにしてんだとか、言うんじゃねぇぞ。
菓子はいくつになってもうまい。
たまになんかこう、無性に百円単位の菓子が食いたくなるんだよな。
俺が食べているのはトポスという自社製品で、看板製品でもある。
丸い堅焼きビスケットの中に、カスタードクリームが入ったのがノーマルトポス。
三初が言うティラミスムースは、その対だ。
ビスケットの上からパイシートを乗せているので、上はサクサク、中はカリッとしている。マジでうまい。
他にも季節によってショートケーキムースやら、マロンクリームなんかも出したりした。
ちょっとだけ割高だが、それでも店頭価格で百円代だぜ。
これは破格だ。購買部、スッゲェ。
だらんとソファーの肘置きに腕を置いてだらけながら、トポスを貪る自堕落な午前。
俺の膝を枕にバリッツを食べる三初は、基本的にしょっぱい系ばかり食べている。
膝枕はやらされすぎて慣れたからどうでもいいが、行儀が悪いやつめ。
犬柄のティーシャツにスウェットの俺と違い、黒のスキニーにグレーのカットソーを着た三初はそれでも様になるから、得な男だ。
「…………」
「いて」
俺はなんとなく三初の側頭部にズビッ、と指を突き立てる。
するとてんで痛そうじゃない棒読みの悲鳴が上がった。
ペロリと指についたバリッツの粉を舐めた三初は、テーブルの上のお手ふきで手を拭き、仰向けに寝直す。
「なんですか?」
「別に」
「そ?」
俺の手を取って尋ねられるが、知らんぷりしてテレビの画面を見つめた。
コメディ映画なので笑いどころがあり、少し吹き出す。
これいいな。原作は小説だったっけか。
「先輩……拗ねてもどこも行きませんよ? ゴールデンウィークに旅行とか、地獄なんで」
「イカレてんのか?」
しかし俺の手を胸に抱いてトントンと指先でつつく三初は、なんの脈絡もなくそんなことを言った。
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