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03
とまぁ、こんな感じの休日である。
連休とはいえ出かけなくても、コイツとの休日はいつもそれなりに充実していた。最終的には三初が家で温泉卵を作ってくれたから、外食しなくても良くなったり。
天ぷらも揚げてくれたし、色ご飯も炊いてくれた。和食は好きだ。
俺はブロッコリーの胡麻和えを作ったぜ。混ぜただけだが、立派なもんだ。
夕飯の買い出しに行った時、せっかくの連休だから宅飲みしようってことになって酒類も調達。食と酒の出資者は俺だ。
そしてあれもこれもと美味かったことと、明日が休みということもあり、リミットを気にせず飲んだ──結果。
「おい……お前、聞いてんのか? 三初のメシがな、すんげぇうめぇんだ……いろごはん」
「そりゃどうも」
当然のように、俺はすっかりへべれけバカ野郎と化していた。
わざわざ席を引っ張って移動し、三初の隣に座ったのである。
ベロベロに酔って恋人にしがみつき本人に本人のノロケをやらかすとは、素面の俺が見たら無言で引きこもるだろう。
けれど今の俺にとっては、三初がいるなら絡むのが所定の動作なのだ。
「あー……そんなにうまいなら、さっさとメシ食ってください。俺に絡まないで」
「うん、ぁぁ……明日の朝、おにぎりにしてくれよ……」
「アホだなぁ。酒飲みすぎるからメシ食えなくなるんでしょうが」
「たまごは食う……んあ」
「あーんする代わりになにしてくれます?」
「む、ぐ。ん……なんでもしてやらぁ。みはじめぇ、好きだぜ〜……」
「もちっと捻って」
「いっしょに風呂入りてぇ……」
テレビで警察密着、みたいな番組を流し見しながら、俺の口に温泉卵を突っ込む三初。
好きの伝え方を工夫しろと言われて一緒に風呂に入りたいと言うと、三初は「お、珍しく上出来」と楽しそうに笑った。
普段の俺なら絶対にこんなことは言わないが、今の俺はイカレている。
まったく救えねぇだろ。
途中までは「テメェ俺の酒を取んじゃねぇよ殺すぞコラ」と悪酔いしていたのに、一線を超えるとベロベロだ。
んまぁ、いつものことだわ。
俺って酒癖悪ぃから。
軽く酔ったら気持ちよくてよ。
結構酔ったらなんかムカついてきて、もっと酒飲みたくなる。だからお釈迦様だろうが一滴もやらねぇって気分。
だいぶ酔ったらバタンキュー。
で、酒飲みまくって満足したら急にカクンと毒気が抜けて、眠いからかなんなのかウザ絡みのアホになるんだよな。わはは、俺バカだろ。バーカー。
一応酔ってる時は自覚あるんだぜ? あー酔いすぎてバカなこと言ってんのに止まらねぇなーってフワフワ思ってる。
ただあとでぜぇんぶ忘れる。正確には歯抜けのコマ割りが数カット残ってるけど音声はほぼ壊滅。脳死だこれ。
でもそれも仕方ねぇよ。
三初が俺の目の前にいるんだから、仕方ねぇだろ。だってカワイイぜ。
三初は俺が酒に酔って好きだ好きだって言いまくる時、物凄ぉくわかりにくいけど、多少照れてンだ。
実はさ、コイツが「あー」とか「んー」って間を置くのって半分くらい照れ隠しのやつ。最近気づいた。
ちな残り半分は普通に考え中。
顔にはあまり出ないが、三初は割と俺の言葉で照れるし、動揺もする。
秒で平常運転に戻るだけだ。
筋金入りのポーカーフェイスだが、心音はちゃんとブレているのである。
黙々とひたすらあーんで温泉卵を食べさせられながら、俺は誰とも知れず内心でドヤる。あーかわいい。やべぇ。
「んじゃ、お片付けしましょうか」
「みはじめぇ、好きだ」
「先輩、思ったことなんでも口に出さない。ちゃんともっと捻って」
「捻……抱かれてぇんだよ、嫌……?」
「だっこね。嫌です」
「うっ」
スリ、と頬ずりしながらねだってみたが、今度は出来が悪かったらしい。
食事を終えさせた三初は俺の頭をぐいっと押しやって立ち上がり、こっちも見もせずに手際よく食器や余った食事を片付けて行ってしまった。
「……ぅあぁ〜……」
残された俺は三初が座っていた座椅子に凭れこんで残った体温を抱きしめつつ、デロンと脱力するしかない。
なんで。俺、抱かれてぇって言ったろ? お前が片付けるっつぅから俺も抱き上げて連れてってほしかったのに。
三初は俺を抱き抱えられる三初なのに、俺より後片付けを優先しやがった。なんてやつだ。いつもありがとう。
思えばあのスマートな細身で俺を抱き上げられるとこもいい男だぜ。
お姫様抱っことかされねぇんだぞ。
基本おんぶか子ども抱き。
床にベタ寝だとこう、首と背中に引っ掛ける救急救命の持ち方で運ばれる。たまに引きずられる。
ぼへ〜っとそんなことを考えつつ前を向いてみると、警察密着テレビでは痴情のもつれで喧嘩になった夫婦を取り押さえる現場が映されていた。
痴情がもつれると逮捕されんのか。世知辛ぇ世の中だな。知んねぇけど。
まぁ仲良くしろよ。三初は俺と仲良くしねぇで握りメシ握ってっけどな。
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