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「そうか……三初は俺より、おにぎりが好きなんだよな……」 「脳みそ握りますよ? あんたが残りを握れって言ったんでしょう。これが明日の朝飯ですからね」 「うん……俺はおにぎりより三初が好きだ。だから、三初が握ったおにぎりは……すげぇ好き」 「そ? じゃ、梅酒と俺ならどっちですか?」 「………………みはじめ」 「あはは。即答してください」 「むぐぅ」  素早くおにぎりを作り終えたらしい三初がドサッ、と隣に座り、俺の顎を掴んだ。  俺の手から梅酒のグラスが奪われ、それを優雅に飲まれてしまう。  なんで盗るんだ、俺の梅酒だぞ。  熟成梅のお高い梅酒だ。俺が飲みたくて買ったんだ。奪われちまった。 「なん、ぅ、…ん、……っ」  それらの文句を口に出そうとしたが、三初のドアップが現れ、脳がリセットされる。  トロリと濃厚な梅の風味と、甘酸っぱくまろやかな口当たりが喉へ落とされ、反射的に飲み込む。  飲ませた後は唇に吸い付いて離れ、身を引く寸前でペロリと舐められた。 「は……っみはじめ、」 「酒くせぇなー」  顎を離さた俺はニンマリと口元を緩める三初を視認し、その肩にグデ、と体をもたれさせる。  ただ口移しというだけだ。  しかしさっきまで散々飲んでいたのに、違う味がした気がする。  三初は「こうしておけば先輩の好きな酒を飲む時、俺の顔が出てくるようになると思うんですよね」となんでもないように言う。 「俺経由で飲むお酒、おいしい?」 「ん……俺、これで酔いたい……」 「あんたもう酔ってるんですけど」  バシ、と頭を叩かれても、なんのその。  いつもは怒るが、寛大な俺は恋人のオイタを責めたりしないのだ。  俺は「んー……」と言いながら尻尾を振ってグリグリと頭を押し付けた。  な、次はなにするんだ?  仕方ねぇから、付き合ってやる。  こんなん今日だけだぜ。お前だけ。  俺の恋人だからだかんな。  素知らぬ顔でテレビを見ながら俺の耳たぶを弄っている三初に、上機嫌で甘える。  そんな時、ブブッとテーブルに置きっぱなしだったスマホが震え、画面が光った。  着信画面には〝美環(みかん)〟の文字。俺のスマホだ。 「……みかん?」 「んぁ……? 電話、あー、出る……」  せっかく気分が良かったのに、と若干しょげかえりながらも、無碍にはできず手を伸ばす。  三初が横目で俺を見る。  それに気づかず通話ボタンを押し、耳に当てた。途端に女の声が頭にガツンと響く。うるさい。 「うっせ、う、うー……なんだよ、みかん。……飲んで? うん、家飲みしてんだ……まだ酔ってね、よ。俺は全然、だいじょぶ」 「…………」 「あ? 来んの……? もういる……? ん、いいぜ。来いよ。……うん。俺もみかん、大好きだぜ。すげぇ好き、ほんと、いっぱいかわいいって、思う」 「……あー、ね」 「ん、じゃな。開けて、来て」  通話を終えてトン、と画面を叩き、また元通りにテーブルに置く。  ふぅ、泣き虫だ、美環は。  いくつになってもほっとけねぇよ。だって一番かわいい女だから。  ぼんやり考えながら俺は、酔って赤くなった顔を再度三初の肩に乗せようとする。  が、三初は俺の頭をワシッと掴み、自分のほうへ無理矢理向かせた。  酔いどれの俺は、キョトンと三初を見つめるしかない。 「さっきの電話……妹さん?」 「? ん、そうだ。美環……おれのいもうと」  ふへ、と思い出して口元をニヤつかせて認めると、玄関のほうからガチャガチャ、と鍵とドアを開ける音がした。  三初が「やっぱりね」と呟き、頭を離したので、当初の予定通り三初に擦りついて甘える。

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