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「セリフがてんでおもしろくないですが……まぁ、身内ならギリ許す、かな」 「おもしろくねー……の、ん……?」 「言葉選びは大事ですよ」 「んっ……」  ぎゅ、と腕の力を強くしながら三初の呟きに反応すると、項をグリグリなでられた。  気持ちいい。しかしそれだけでは足りない。もっと近くに行きたい。  それから〝やっぱり〟というのは、どういうことだろうか。気になる。 「あ……やっぱり、なに……? みはじめ、膝の上、乗っていいか?」 「頑固だから、先輩は浮気だけはできないタイプだって確信があるっていう話。後……膝は今、オススメはしませんよ。やめといたら?」 「いやだ……じゃあ、片足絡めていいか……? んん……」 「ふ、ひっつくの好きですね」 「そう、俺、好き」  オススメしない、は、わからなかった。  三初の言うことは難しくって、いつもあんまり理解できねぇんだ。  よくわからない俺は、邪険にせず自然体でされるがままの三初の首に腕を回し、半身だけ抱き込むようにして片足を絡めた。  スンスンと匂いを嗅ぐ。  今日の香水はマンダリンとセダー。俺は割と、鼻が利く。  三初の項を楽しむ俺の耳には、ドタドタドタと廊下を慌てて歩く音が聞こえた。  その意味を正しく理解する前に、バンッ! とリビングのドアが開く。来たらしい。 「修にぃ〜っ! 会社の寮老朽化で床抜けて建て替えることになったから、しばらく泊め──」 「なぁ……お前はいつも、かっこいんだ。もうモテたらだめってのに……恋人の俺がいるんだから、それでいいだろ? 俺だけ好きになってくれよ、みはじめ……俺のお前が、欲しいんだぜ」 「そう言われても、モテようとした記憶が人生で一度もないんですけどねぇ。それに俺はもうあんたにあげたでしょ、ボケたんですか? 老化かな」 「廊下、ろうか……」 「──……て?」 「ん、みかん」  ふと顔を上げて目が合った妹が、ビシッ、と石のように固まった。  妹の視界には、おそらく順番に状況の把握材料が映っているんだろう。  まず兄である俺が、へべれけになっていること。これは電話口で知っていた。  衝撃的なのはその兄が、見知らぬ男に抱きついて甘ったれたことを言っていること。  もちろん妹の前でこんなことを言ったことなど、ただの一度もない。  顔は怖いが妹思いで、怒りながらもいつでも世話を焼いてくれる頼れる兄、というのがこれまでの印象だ。  そしてその兄の口走るセリフから、抱きついている男にゾッコンラブであることは明白である。  うん。俺は三初にぞっこん。  事実だから、仕方ねぇ。  見てくれ妹よ、にぃの男だぜ。いい男だ。  ちょっと天邪鬼な鬼畜で暴君だけど、たまに優しいイケメンだ。  最後にくるりと振り向いた三初が妹を見つけ、目を細めながらいつものにんまりを披露する。  それは本人が意識せずとも、相変わらずすこぶる色気のあるサド顔の顔面凶器なのだ。俺とは違う意味でだ。 「あらら……初めまして、こんばんは? 見てのとおりお兄さんとお付き合いしている、三初 要です。ヨロシクね」 「嘘だよッ! うちの兄がイケメン彼氏なんて作れるわけがないッ! よって──結婚詐欺師はお断りだよ〜ッ!?」  と、たったこれだけの一連の流れで、おわかりいただけると思う。  涙目でキャリーバッグを引っさげてやってきた六つ下の妹──御割 美環は、シスコンの俺以上にアホな、愛すべきブラコンなのだった。  もちろんバトルなんて始まらない。  美環は俺より単純な女だからな。

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