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 ◇  翌日は、一日を使って引越しをした。  衣類や仕事道具、使い慣れた雑貨など、最低限の荷物を三初の家へ運び入れる。  荷造りと荷運び、荷解きをすれば、一日なんてあっという間だ。  こういう時、相手が恋人で良かったと思う。  寝室は一つでこと足りるし、プライベートなんてダダ漏れでも構わないから、ある程度の距離を取れば問題ない。  俺の荷物は客間である小さめの洋室に運ばれ、とりあえずの住処も与えられた。  過去に一人暮らしにしては無駄に広いと思ったのを、訂正しなければならなくなった俺である。  その後は夕飯を食べながら、居候中のルールも決めた。  期間内は家賃を折半する。  雑費と光熱費は三初が払うので、食費は俺が払う。外食は別。  家事については、できる時にできるほうが率先してやることになった。  料理ができない俺が洗い物をするというのは固定だが、お互い一人暮らしをしていて家事はできるので、そうしたのだ。  ま、相手の性格はわかってるしな。  三初は自分がなにもしない状態で人に押し付けることはしない。  押し付けられるのが嫌いなのだから、当然やらない男だ。  俺だって自分の世話を誰かに押し付けるのは、むず痒くってできないだろう。  そしてどこにどの生活用品があるのかや、家電の使い方、生活のルールなんかは、まさかのガイドがついた。  そういうのを文書にしたものをPDFファイルで送りつけられたので、いちいち聞かなくても把握しろ、ということである。  有能な暴君、というのを体現した行動だ。  効率厨め。  兎にも角にも、こうして始まった三ヶ月の居候生活。  始まって一週間が過ぎ、祝日やら土日やらが重なった長いゴールデンウィークも、終わりへ向かう。  しかし残すところ後二日となってから──俺には既に思うところが芽生えていた。 「…………」  三初宅の無駄にふかふかなソファーに寝そべり、マルイを腹の上に乗せながら、ムスッ、と不貞腐れる。  なにがどうして不貞腐れているのかと言うと、話せば長くなる話だが。  結論からかんたんに言うと、目的が明確な恋人から日常的な同居人になった三初は──超個人主義だったのだ。 「おいマルイ。お前の飼い主、マジでサイボーグかよ」 「ナーウ」 「全然わかんねぇ」  犬派なのに猫にやたら構われる俺は、飼い主よりもかわいげのあるマルイの額を、カリカリと指先でなでる。  とりあえず根拠を説明しよう。  普段俺がここに来る時といえば、仕事帰りに食事に行った帰りに泊まる時や、ここで夕飯を作って食べる時だった。  いわゆるお家デート、ってやつの時も、やることはまぁ決まっている。  お互い大人で車もあるとなれば、基本的に外へ連れ出すことも多い。  とはいえおおむね俺の部屋に泊まったり集まったりしていたから、三初のプライベートをじっくり知ることなんてなかった。  しかし住むとなれば話は別。  流石に毎晩ヤッたりしねぇ。  当然ゴールデンウィークだからって、毎日デートしたりもしねぇだろ?  そうなれば三初というのは、元来気ままに生きる生き物である。  どうにも俺をマルイやナガイと同じように扱うフシが、目立ってきたのだ。

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