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「ね? だから恋人いるならダメだよね、って言ってんでしょうが。俺にも禁欲しろって言ってることになりますし」
そう締め括り、三初は体を離した。
禁欲発言から察する〝よそ見も浮気もひとり遊びも興味なし〟という無意識の三初の本心は、気が付かず、だ。
相変わらず察しの悪い俺は納得したので美環に向き直り、考え込む。
美環は三初に親指を立てていた。
三初は片手を上げて応えている。いつの間にか仲良くなってんなコノヤロウ。
話はわかったが、俺の中に春の夜へ美環を追い出す選択肢はない。
かと言って同じく、三初を追い出す選択肢もなかった。
今まで恋人を妹より優先したことはあまりない。新鮮な悩みだ。
七三の割合で悩むことなく妹を優先していたのに、俺は三ヶ月、三初とプライベートが離れることを選択できないでいる。
腕を組んでグルグルと考えこみ、頭が痛くなってきた。酒の飲み過ぎか。
(……こ、こうなったら、そうだ。俺がマンスリーマンションを借りて出ていきゃいいんだ)
考えあぐねた末に、俺は冷静に考えれば意味がわからない結論を出す。
「よし、俺が「じゃ、先輩。俺んちに居候しましょうか」…………はい?」
それを言おうとした途端──三初があっけらかんととんでもないことを口にした。
バッ! と振り向く。
コイツ今なんて言ったんだ? 俺が居候? いやなんでそうなるんだよッ!
全然わけがわからない俺とキョトンとする美環に、三初は淡々と説明する。
「や、先輩が家出る意味はわかんねぇから、折衷案ね。先輩は俺の部屋に居候して、美環ちゃんはここに住めばいい。男女で住むより合理的だし、丁度いいでしょ」
「「なるほど……」」
合理的な説明を受け納得をユニゾンさせた俺達に、三初は「根っこは似てんね」と口元を緩める。
お前のその言葉の真意が俺には分かるぞコラ。言外にアホだって言ってんだろ。
とは言え三初がいいと言うなら問題のない案なので、逆らうことはない。
何度も泊まり泊まられしている俺と三初なら、突然の共同生活でも大きく衝突することはないと思う。
職場も同じだから、むしろ出勤は楽だな。
週末は一台車を置いて一緒に飯を食って帰ることが多いので、出るところが同じほうがイイ。
(問題ねぇどころか、ベストじゃねぇか? んじゃあ今夜はここに泊まるとして、作業は明日からでいいだろ。完璧だ)
せっかくのゴールデンウィークだが、最低限とはいえ荷物運びで半日潰れそうだ。
異論のない俺はなにも言わず、三初を見つめてコクリと頷く。
三初はニンマリと笑い、優雅に足を組みかえ、ソファーに深く腰かける。
「決定ね」
──こうして。
暴君の鶴の一声により、明日からの三ヶ月、俺と三初は共に暮らすことになったのであった。
そして俺がこれって一応同棲になるんじゃねぇのか? と気がつくのは、必要最低限の荷物を全て運びきった後になることをお伝えしておこう。
お互い歩み寄ることを努力しているとはいえ、ワンマンプレイのひねくれ暴君と、不器用をこじらせた強情な俺の、生活。
たまに泊まることと、毎日共に暮らすことの違いでどうなるのかは、神のみぞ知るというものなのだ。
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