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「ケッ。他人と一緒に住むって、思ってたよりかんたんじゃねぇな」
「ナゥゥー」
「まあ、多分だぜ? 俺とアイツじゃ、相手に求めることが違ぇんだ」
じっと見つめてきたマルイの顎をなでてやると、ゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶ。
猫がなにを言っているのかわからなくとも、喜怒哀楽くらいはわかる。
三初は人間だが、それと同じだ。
言葉足らずの天邪鬼なアイツは、確かに聞けば答えてくれるだろう。
でも考えるほど聞けない意地っ張りの俺は、それが難しい。
困ったやつらだって自覚は、お互いあるんだけどよ。
しかもお互い一応、どうにかしようとはしているんだぜ。
そこは性格が凝り固まった大人だからこその、修正難易度だ。
俺は協力して、できれば居候の俺がアイツを支えて、そして最低限よりは構ってほしい。
三初はどうだかわかんねぇ。
でも流石に付き合いも半年近くなってきた俺の予想では、アイツは十割自分が生活の負担を担っても、構わないんだと思う。
そう確信が持てる。
ただそれについては、やはり納得いかない反抗心があった。
「ナーウ?」
「おう。結局俺とお前の飼い主は、ムカつくことに多少似てるってこった。フン、わかりにくい野郎だ」
鼻先をチョイチョイと構ってやると、マルイはそっぽを向き、本格的に丸くなる。
フラれちまった。
マルイは三初に懐いてるから、散々文句を聞かされて不貞腐れたのかもしれない。
ふぅ、と息を吐く。
まぁな。
俺は確かに、デロデロに惚れてる割には、三初が求めるほどアイツを頼らねぇよ。
それは年上の矜持。
本気でへばってる時は本気で弱るから、あまり見せたくない。
でもそれって、アイツにも言えることだ。
三初は弱らない。
弱みも弱音も、見せない。
俺にごくごく稀に甘えても、頼ることはしない。頼らなくても困らないから、しないのだ。
それって全然フェアじゃねぇ。
天邪鬼の理由はそこにあると俺は見てる。
理由は不明だが、甘えや弱さのありのままを見せたら死ぬんじゃねぇかっていうくらい、アイツは上っ面を塗り固めるのが上手い。
めんどくせぇやつめ。
任せるとか頼るとか甘えるとか、むしろ結構嬉、……今のなしだ。
まぁいい、ぐらいだかんな。うん。
長くなったがとにかく、まぁいいから、もっとそういう構い方をしろって話。
そうしてぼんやりしていると、俺の腹の虫がグゥ、と鳴き声をあげた。
「……。待ってるなんてガラじゃねぇし、乗り込むかッ」
「ンニャ」
ほんのりと赤く染った頬を誤魔化すようにマルイを下ろし、勢いつけて立ち上がる。
長期の休みだったからこそわかった、スタンスの違いによる弊害を、打破しねぇと。
「うっし」
綺麗に掃除されたフローリングを踏んでリビングから出て、三初の書斎へ向かう。
いつも仕事に持っていったり朝使ったりしているノートパソコンは、寝室のテーブルに置いてある。
でも書斎には副業に使うデスクトップパソコンが、一通りの機材と共に置いてあるらしい。
って言ってただけだけどよ。
入ったことはねぇんだ。理由は不明。
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