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「親父がフラフラしてたから、母さんは俺を厳しく育てたんだ。長男だから下の子の面倒を見て、守りなさい。仕事にも勉強にも手を抜かず、責任をもってやりなさい」 「おかげで先輩は社畜脳に、甘え下手、と」 「ほっとけ。テメェに言われたかねぇ」  茶化す三初に悪態を吐く。  確かに必要以上に甘えなかったから、未だに体調不良で弱ると寂しくなりすぎて丸くなってしまう。  だがそれは俺の元々の性格もあるのだ。  友達にも恵まれていたので、ずっと気を張って生きていたわけじゃない。  俺が弱ったらそばにいる、素直じゃない恋人もいるしな。結構満ちてる。 「ゲホッ……年上だからってそんなことされたら、俺は一生面倒みられんの? 冗談でしょ。マジ勘弁」  咳き込んだ三初はボソリと呟き、俺の頭を軽くなでた。  母親の教育方針に不満があるらしい。  よく聞くと、俺の父親にも「本人と会うことあったら、ま、ボディブロウでもキメておきます」と素知らぬ顔で呪詛を吐いた。  なんだよ、甘やかしてんのか?  ククク、と笑ってしまう。  途端に髪をキツく掴まれた。  病人のくせにクソ痛てぇ。足を蹴ってやる。 「今度はお前の話を聞かせろよ。俺だけってのはフェアじゃねぇだろ」 「俺の? 生まれて生きて、今。以上」 「ふざけろ」 「いて」  素早くもう一度蹴ってやった。  ちゃんと言い合うって決めたところなのに、これだ。  ケッ。俺を舐めんなよ。  どれだけヘビィな内容でも、キチッと受け止めてやらぁ。 「んじゃ、俺の家のこと、まぁ……掻い摘んで言うと、会社経営してる家で、俺はそこの跡取りだったんですよね。生まれつき。ガチガチの英才教育。自由なしで、将来強制。俺のこびりついた天邪鬼と弱みを握って保険かける癖は、そのへんから来てるんですけど」 「思った以上にヘビィだったわチクショウ」  心に決めた矢先。  ドラマのような話を聞かされ、途端に顔がクシャッとへちゃむくれてしまった。  三初は愉快げに笑っている。  いや、笑ってんな。自分ちのことだろ!  人格形成にそこまで関わってくるとか、そんな家嫌だわ! 「はっはっはっ。昔の話ですよ? 今はなんか、こう、頭の線がある日突然ブチッとキレちゃって。そんで跡継ぎの権利とかぜーんぶ弟にあげて、地元離れてこっちで就職したんですよね」 「重いわァめちゃくちゃ重いわァ……ッ!」 「あっはっはっは! っぅえっ、ゲホッゴホッあはははっ」 「噎せるほど笑ってんじゃねぇよ風邪っぴきッ! 俺の苦々しい顔がそんなに面白いか三初ェッ!」 「ぷっく、くくく、本人より重く受け止めてプルプル震えてんのとか笑うしかないでしょ」  一番重く受け止めるべき当人があっけらかんと笑っているなんて、意味がわからない。  ゴスッ! ゴスッ! と脛を蹴りあげて足をもだつかせるが、絶妙に脛を照準からズラされる。  本来なら悲壮感たっぷりに実は俺の家は……っ、と涙ながらに語り始めてもおかしくない案件なのだ。  もう父親とは離婚していて兄妹も成人済みで関わりのない俺は、正しく過去の出来事で処理済みである。  しかし三初はそうではない。  歪められた自分ごと捨ててなかったことにしても、多少は自分を哀れんでもいいと思う。  三初が三初を大事にしねぇのは、俺は全然気に食わねぇ。 「ゲホッ……いや。それ丸ごとあんたのことね。先輩は俺を振り回せるから俺のダサいところ知っててわかってないと思いますが……俺は先輩が思ってるより、自己中で図太いですよ。マジで」 「あぁん? よくわかんねぇけど、マジなもんかよ」 「わかんなくていいですけど、マジですよ。ゴホッ」  サイボーグ疑惑はあっても実際サイボーグではないとわかっている俺は、当然恋人を贔屓して、当然気にかけるに決まってる。  図太くて自己中な暴君様だとしても、全てがそれで構成されているわけじゃない。

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