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「真面目にどうでもいいんだけどなぁ……」
「うっせぇな。どんなにテメェが気にしてなかったり、悪かったりしても、テメェを贔屓して気にかけるのが彼氏様ってもんなんだよ」
「恋愛脳? 乙女ですね、先輩」
「ほざけ。俺に恥をかかせてねぇで、自分の話をしろってんだッ」
ガルルルッとつい唸り声をあげる。
好きでこんな必死に恋してるわけじゃねぇわ! 気づいたら沈んでたんだよドブにッ!
どんどん拗ねていく俺を笑う治りかけの三初は、機嫌がいいらしい。
ちゃんと話を続けてくれたが、その話はなんとも言えないものだった。
「恋ってほどじゃないですが、俺は昔、先輩とは真逆の人に懐いたんですよね」
「真逆?」
「そう。温和で、人がいい。みんなに頼られて好かれる人」
「…………」
喧嘩を売っているのか、と聞くと、全然? と笑われる。機嫌イイなちくしょうめ。
三初の話だと、その昔、三初は家族や周囲の期待を一身に背負っていたそうだ。
勉強もスポーツも一番で、いつも笑っていて、誰にでも分け隔てなく接するパーフェクトな男だった。
それはもちろん仮面だ。
本性はそれもう鬼畜でワガママで気まぐれな三初である。
三初にその仮面を被せたのは父親だったが、教師や仲間もそれを甘んじて受け始めた。
有り体に言えば、利用だ。
なんでもかんでも押し付けるようになった。
詳細は語らず軽く話されたけれど、それはなんとなーく、予想が着いている。
今の三初は理不尽ならば頼み事を全て突っぱねるが、仮面を被っていたなら、それを全て受けていたのだろう。
親に着けられた仮面を、自分で剥がすことはできない。
生まれた時から強いられたことだから、保護下にいる一介の学生では、逆らえなかった。
そんな生活の中。
関わりのある人の中でただ一人、三初になにも押し付けない先輩がいたらしい。
その人が俺と真逆の、温和で人が良くてみんなに好かれる人、という先輩だ。
今ほど図太くなくまだ若かった三初は、気の休まる人を心のどこかで求めていたのである。
故にその人となら自分が相手を抱えるのではなく、支え合う関係を築けるのではないかと考えた。
恋のなりそこないだ。
恋のなりそこないだが──……期待されるばかりだった三初が、初めてそんな期待をしてしまった。
だから人の頼みごとを断れない先輩を、三初は気持ちをくみ取って、助けることにした。
理由はシンプルなもの。
仕事を手伝うと喜んだから、そうした。
先輩の代わりに断ったり、自分が代わったり、三初なりにどうにか動いたのだ。
結果は散々。
おかげで三初の仮面は分厚くなり、二人分の疲労を抱えて、親からのプレッシャーと化学変化で大爆発を起こした。
その先である日突然、ブチッとなにかがキレたのである。
「……ハァ~……?」
こってりした内容をあっさりと仕上げて話された俺は、理解不能な不満タラタラの声を上げた。
それはまぁ、確かに〝自分の話をしろ〟とせがんだのは俺だ。
しかしそんな話を寝物語に聞かされて、俺の眉間のシワは深まり、顔に「理解できねぇ。なんだそいつ」と書き記すに至る。
普通に意味わからん。
後輩に全部押し付けるとか、いつもごめんねじゃ済まなくね? 自分も頑張ろうってなるだろ。
三初は俺の過去の話を聞いてなんか怒ってたけど、俺だって怒るわ、アホ。
笑ってんな。なんで機嫌いいんだよ。お前も意味わからん。
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