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02(side美環)
「ねぇねぇ、今日は三初さん来ないの?」
「あ? あいつは来ねぇよ。水差す気はないって言ってたけど。……別に来てもいいのによ」
「是非ともだよ~!」
「フン、あいつに言え」
ブスッ、と不貞腐れながらへの字に唇を曲げ、三初さんの文句を言うにぃを見て、私は三初さんの来訪を支持する。
だってね。にぃの「別に来てもいいのによ」は、つまり「一緒に来てくれてもよかったのに」ってことだからね。
(へっへっへ。にぃのベタボレな恋人さんは、私だって大好きなんだぜっ)
私は脳内に三初さんを思い出して、うししと笑う。
三初さんというのは、にぃの彼氏である。
モデルかな? ってくらいにイケメンでスタイルが良くて、しかもいい匂いでなにかとそつがなくて、動きすら余裕のある人だ。
初めはハイレベルイケメンが「お兄さんとお付き合いしています」なんて笑いかけるものだから、結婚詐欺師かと思って思いっきり威嚇してしまった。
けれど酔っ払ったにぃが三初さんの言うとおりにむちゅーっとキスをしたので、疑惑は停止。
更に三初さんの好きなところトップスリーを恥ずかしそうにしながらも発表してくれたため、疑惑は晴れて深々と謝罪をした。
ちなみにそのトップスリーは、一位から順番に〝口移しでお酒を飲ませてくれるところ〟。〝色ご飯でおにぎりを作ってくれるところ〟。〝温泉卵が美味しいところ〟。
私にはよくわからないけど、たぶん〝それに至るまでの過程全部好き〟か、もしくは〝なんでもない行動でも好きだと思う〟のどっちかかな。
妹の翻訳は完璧なのだよ。
でもにぃは酔っ払ってたからなぁ。
酔っ払ったにぃは、酔い度によっては凄く相手が大変。
ちょっと酔ってるとよくしゃべるだけで、そこそこ酔うと誰も寄り付けないし黙り込んでお酒を際限なく飲み始める。
すごーく酔うとあんなふうに、ぐだぐだになっちゃうんだ。
昔からお母さんに迷惑かけないようににぃは我慢ばっかりしてたから、酔うと甘えちゃうみたい。
美環大好き、どっかいっちゃやだやだって、いっつも言ってるよ。仕方のないにぃだね。
けれど三初さんはそのトップスリーを聞いて、にぃの頭をワシャワシャっとなでていた。
なにも言わずにただ笑ってたのは、ご機嫌? あれでよかったのかな?
んんっ。話が長くなっちゃった。
なにが言いたいかって言うと、にぃは三初さんが大好きで、三初さんもにぃが大好きみたいってことなのさ!
「だいたい、俺が住んでた時は散々来てたんだから、今更だろうが。家族じゃないしって、一緒に住んでンだから同じようなもんだろ?」
私が考え事をしていた間も、にぃの三初さんへの不満語りは続いていた。
にぃの言ってることは回りくどいんだ。
にぃは世紀の意地っ張りマンだからね。
要約すると、〝にぃとしては三初さんももう家族と同じくらいに思っているから、気を遣われるのは嫌だ〟ってこと。私は優秀な翻訳機なのです。
「うししっ。むしろ来てほしいなぁ、私的にはもっと仲良くなりたいっ」
「はぁ? なんでお前そんなアイツのこと気に入ってんだよ」
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