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03(side美環)

 抱き着いたにぃの腕をブンブン振って笑いかけると、にぃは怪訝そうに私を睨む。 「そんなのにぃの恋人さんなんだから、当たり前じゃんよっ。今までの彼女さんと違って、にぃから好きになったみたいだし」 「!? そ、っ、俺が先に好きになったとは限らねぇだろッ」 「やぁやぁ! つまりどっち始まりだとしても、今はにぃもベタボレなんでしょ~?」 「アホ、俺の言葉を読み解くなッ」  嬉しくってにへにへと笑いつつ微かな本音を引き当てた。  私からすれば簡単な問題である。  昔からにぃは、相手を自分から好きになって告白するのではなく、告白されて付き合ううちに好きになっていくタイプだ。  なので見ていて温度差があったのだが、三初さんと一緒にいる時のにぃは自然体だったし、私と三初さんを選べないくらい大事にしているとわかる。  だからこそ、私は二人を応援する。  男同士だとかは今のご時世、結構市民権を得てるしね!  当てられて照れてるくせに必死に拗ねて見せるにぃに、へへへと笑って──ふと思い出した。 「あっ、そうそう。私、にぃに渡すものがあるんだ」 「ンだよッ?」  突然立ち上がる私に、にぃは首を傾げる。  私は思いついたらすぐ行動しちゃうから、こういう突然話を変えたり動いたりすることに慣れてるんだ。  ちょっと待っててと声をかけて、とっとこ走り出す。 (ええと、確か寝室に置いておいたはず……あった、これだ!)  目当ての品を手に取って、意気揚々とリビングに戻った。  きっとこれがないと困ると思うんだよね!  だから絶対渡さないとって思ってて、すっかり忘れてたよっ。うっかりだなぁ~。 「ほらこれ! 忘れていったでしょっ!」  ガチャ、とドアを開いて、ソファーに座ってちゃんと待ってくれていたにぃに、尻尾を振らん勢いで駆け寄る。  手の中の物を掲げて、私はにっこりと笑った。 「イボ付きバイブとチェーン付きボディクリップ!」 「不燃ゴミだオラァッ!!」  まさか、兄が恵まれた体を駆使してソファーの背もたれを飛び越え、ワンステップで襲い掛かってくるとは。  純粋な善意で持ってきたのに、修にぃは私の手からバイブとクリップをひったくって、不燃ゴミのかごの中にガゴォンッ! と投げ捨てた。  ひったくられた私は、きょとんだ。  ええ? 綺麗にしてあったのにベッドの下に転がっていたから、うっかりなくしたと思っていたのに、要らないのかな?  顔を真っ赤にして地獄の鬼かと思うくらい目を吊り上げ、牙をむいて唸るにぃは、身内でもちょっぴりおっかないレベル。  結局この日、アレは必ず捨てろと口を酸っぱくして言い聞かせられて、私とにぃの歓談は幕を下ろしたのだった。  まったくもう。  私だって大人だから口出しなんてしないのに、いつまで経っても子ども扱いされちゃう。  それも嬉しいくらいには、私はにぃが大好きだけどね! 「にぃ、ほんとにいいの? 困んない?」 「美環、ありゃ呪いの道具だ。呪具だッ! 金輪際あんなのを見つけてもゼッテェ触んな……! にぃと約束できんな?」 「? オッケ! じゃあ今度から見つけたら三初さんに連絡するよ」 「あいつが呪術師なんだよッ!」  第八.五話 了

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