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09
丸めた布団を抱いてゴロゴロと丸くなり、熱を冷ましていると、不意にスマホがタララララン、と着信を告げた。
瞬間、ガバッ! と勢いよく転がってスマホを点け、耳に当てる。
だから、別に喜んでねぇって言ってんだろッ! 仕事のかもしんねぇだけだわ!
「あ、っンだよ? あぁッ?」
『もしもし、にぃ? 美環だぜ〜い』
「……。……んんッ、美環か」
『? うん』
スン、と正座に座り直した。
(……画面、見てなかったぜ……ッ)
なぜか勝手に三初百パーセントだと思っていた自分を、助走をつけて殴りたい。
咳払いで誤魔化して要件を聞くと、美環は明るく話し始める。
『修にぃ、今欲しいものある?』
「は? 欲しいもの? ……愛想?」
『え〜? 愛想なくてもにぃはもう十分優しくてかっこいいから、もっと物理的なやつ!』
「あぁ? お前、んなこと言って、なにが欲しいんだよ」
『もー! オネダリしたくてお世辞言ったわけじゃないからっ! ホントのことじゃんよっ! むふ……でも新作のホラゲは欲しい』
「目ぇ悪くなっても知らねぇぞ」
『やった! 修にぃ大好きっ! うししっ、仕事無理しないで帰ってきてねぇ〜』
「おー。お前もあんまきばんなよ」
『ほどほどに全力で頑張るともっ』
通話の向こう側で嬉しげに声を弾ませる妹に、俺はほのぼのと和んだ。
なんで俺の欲しいものを聞いたのかは知んねぇけど、妹にはたからねぇよ。
普段構ってやれねぇしたまにはなにかやるのもいいか、と思ってゲームをやる約束をした後、通話を切って再度ゴロリと寝そべった。
仕事の話は美環にはできないが、気が休まる。
少し揺らいでいたけれど、これなら思いとどまれそうだ。美環様々である。
三初シックになっているのが緩和されたので機嫌が戻った俺は、間を置かずにタララララン、と着信を告げるスマホを、無警戒で取った。
「おー。どした、美環」
『いつ俺が美環ちゃんになったんですかねぇ』
「ぉあぁッ!?」
だがしかし。
まさかの逆パターン。
タイミングが良すぎたので美環がなにか言い忘れたのかと思ったのに、待ち望んだ声が聞こえて、俺は飛び起きてしまった。
パクパクと口を開閉させ、しばし震える。
呆れたため息が鼓膜を揺らすが、無視だ。
まさか三初からかけてくるなんて、頬が赤くなるのを止められない。
クーラーの効いた室内だが、暑い気がする。後で温度下げるしかねぇ。
(マジか。俺がいなくて寂しかったのか? それともちびっとぐらいは、心配した、とか……? 別になんでもいいけど、仕方ねぇやつだな、クソ……)
ベッドの上で胡座をかいて理由を考えると、気持ちにへら、と口元が緩んだ。
メッセージをすっとばして着信を入れるということは、それなりの要件があるはず。
それが俺と同じだと浮き足立ってしまうので、んんッ、と咳払いをして落ち着いてから返事をした。
「なん、あー……なんか、あったのかっ?」
『いや、声裏返りすぎ。ちょっと先輩を虐めてデトックスしようと思っただけですよ』
「俺を気にかけたわけじゃねぇのかコンチクショウッ!」
にも関わらず予想を裏切る返答に、コロンッ! と胡座をかいたままベッドに倒れる。
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