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わざわざ電話をかけてきて俺を虐めたかっただけだなんて、コイツのハートはヘドロハートだ。
ちょっとは恋しがれッ! と胸中で叫び、俺はモソ、と夏布団の中に潜り込んだ。
ケッ、拗ねてなんかねぇかんな。
全然バリバリ元気だわ。バク転してやろうか? あぁ?
『お望みなら気にかけますけど。どう? うまくやれてます?』
「接待かよクソが。テメェ総括だろ。毎日メール貰ってるくせに」
『そこまで知らないですよ。竹本先輩の報告じゃ、個人のことまで書いてないんで。先輩言わないしね』
「そりゃお前、コンビ解消しちまったんだからなんでもかんでも言わねぇわ。保護者かよ」
『飼い主。まー根詰めてたからまともに会話してなかったですし、仕方ないか……』
竹本が急に帰ってくると困るので苛立ちを抑えて声をひそめ、久しぶりに言葉で軽く殴り合う。
いつも通りローテンポに繰り出される三初の声を聞いていると、不思議とささくれ立っていた心が日常を取り戻し始めた。
無意識に口元が緩む。
への字に結ばれていた頑なな唇も、三日ぶりに聞く声に絆されたようだ。
『そも、通話するの自体、久しぶりですね。まともな会話っていうと……十日ぶり?』
「ん、まーな。別に、そのくらいどってことねぇよ。べったり張り付く年じゃねぇしな」
『そ。たくましいことで』
着信の直前まで寂寞を抱えていたことが大人げないと思って素っ気なく返すと、三初はそれ以上反応しなかった。
(なんだよ。マジで俺の様子が気になってたのか? いや、そりゃねぇわな。三初だしな)
ふわりと浮かんだ可能性は、そうそうに葬る。
俺にだって現実的かどうかぐらいはわかるのだ。
「そっちはどうだ?」
『こっちは全然普通。ヒヨコ組がピヨってんのと、総括の管轄多すぎってくらい』
「はっ。仕事遅いからってヒヨコ食うなよ、ドラ猫」
『食いませんよ。相当、優しくしてますから。ヒヨコもニワトリも』
「くくく、山本たちもかよ。ご愁傷様だなァ」
『本社に帰ってくるなら、竹本先輩も優しく飼育してあげるんですけどね』
「なんでだよ」
なぜか竹本も管理すると暗に言った三初に笑い混じりにツッコミを入れると、薄ら笑いが返ってきた。
よくわかんねぇけど、いいか。
お互い新コンビ始動に向けての準備と勉強で忙しかったから、こうしてただ話すだけで俺は少し浮かれてしまう。
そうしてしばらく、他愛のない話をした。
感じていた仕事の弱音は吐かなかったし、三初もそういうことは吐かない。
だけど三初が少し疲れていることは、なんとなくわかった。
言葉で説明はできない、感覚的なものだ。
声のトーンであったり、反応であったり、息の吐き方であったり。
三初が少しずつ話題を仕事から離していったから、たぶん俺はもっとわかりやすくその感覚的なものを出してしまっているのだろう。
それでもお互い指摘しない。
三初の理由はわからないが、俺の理由は不必要だから。
今の会話に水を差したくねぇんだ。
ただ仕事を忘れて声を聞いていたいって感覚が、俺にもあったらしい。
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