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31(side三初)
性格上、俺は永久に増え続ける総括という名の雑用係は向いていない。
ああいうのは見た目と違ってクソ真面目な先輩のほうが向いていた。
そして俺は先輩が苦手な、臨機応変に対応する現場の仕事が向いている。
いつもそういうふうに役割分担をしてきた。
話し合って決めたわけではない。
そこまで俺もあの人も素直じゃない。
空気感で、なんとなく。
暗黙の了解というやつかね。
だから先輩からの報告書があがってきた時、俺と交代したほうがお互いにいいだろうな、と思って、志願したのだ。
今はあちこちで起こるトラブル解決を全部俺に押しつけていたので上司は渋ったが、そこはごり押し。多少強引だったかもしれない。
報告書の内容を見れば、先輩の思うことなんて簡単にわかる。
あの性格で冷静な対応と丁寧な報告書を送りつけたなら、本心は真逆なんだろう。
悔しくてやるせなくて情けない。
仕事を途中で誰かに投げ出すことが大嫌いだから、それなら余計、俺が代わってあげないと、ね。
急ぎの仕事を少し本気で片付けて、最低限の荷物を持ち、車に乗る。
スマホを取り出して耳にあてたのは、三年以上コンビを組んでいた俺が、御割 修介という同僚をよく知っていたからだ。
一度切れて二度目に応答した先輩の声が妙な響きを持っていたので、選択肢を与えてまくしたてる。
それだけでよかった。
優しい言葉も甘い言葉も、俺はあげない。先輩もいらない。
ただ一つだけ、しみじみと確信を得る。
──こういう時に指さして笑ってあげられないから、やっぱり二人で組んだほうが、合理的だということだ。
まったく。
珍しく俺たちの間にはなにも問題がないってのに、さ。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「じゃあチョコミントアイスのフルーツカップ二つと~、ミーチューバーのみけぴょんが作ってたのってどれですかぁ?」
「レモンスカッシュトポスのシェケラですね。サイズと無料のトッピングをお選びいただけますよ」
あとたった数日で本命の日がくるというのにノー警戒だった仕事に阻まれ、俺はここに至るまでを思い返しながら、殺意を押し殺して働いていた。
にこやかな笑顔を張りつけて清算が終わり次第、客が移動している間にさっさと注文の品を作っていく。
先輩が接客スタッフ用に作っていたのだろう商品作成の流れという資料を見て、朝から材料や機械の配置を効率的な配置に変えた。
移動の手間は殺すべき。
メニューとトッピングは頭に叩き込んである。そのくらい余裕でしょ。
夏休み目前の休日に話題性のあるものを売る、なんて状況は、地獄に決まっている。
カウンターから見える上半身は愛想よくにこやかで丁寧に対応し、見えない手元は最高速度だ。
「おまたせいたしました。フルーツカップ二つとシェケラのレモンM二つ。チョコソースとホイップトッピングがこちらで、トポス増量トッピングがこちらでございます」
「わぁ~っありがとうございます! 凄い!」
「超美味しそう~っ!」
「あはは、喜んでいただけて嬉しいです。もしお気に召しましたら、おうちで試してみてくださいね」
「はい!」
「絶対やります!」
商売としての丁寧な愛想と、ほんの少しの個人らしい愛嬌のハイブリッド。
ん? いやいや。
今なお俺の手は高速稼働中ですが、なにか。減った盛り付けストックは補充しなきゃ。
開店後に客が増え始めてこの上下の二面性を目撃した竹本先輩がドン引きして「カムバック御割」と呟いていたけれど、知ったこっちゃないし御割先輩は返さない。
客前なので笑顔で振り向き「母体市場のトポス売上確認したら業者から荷受して更に棚補充してこい下さいね」と追いやった。
立ってるものは先輩でも使う。
なんて生ぬるい。
生きてるものは先輩でも使うのだ。
土日を舐めているなら、すべからく死ねばいいと思う。
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