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番外編① 御割先輩は寝相が悪い(side三初)
御割先輩は寝相が悪い。
正確には悪いというより、一緒に寝ると懐き度に合わせて距離が近くなる。たぶん無意識に、ね。
恋人になる前は、俺に背を向けて寝ていたと思う。
俺のことが好きになっていたらしい頃は、控えめにくっついて朝抜け出すのに苦労させられた。
そして恋人になってしばらく経っている、現在は──
「……くかー……」
「…………」
──俺が目を覚ますとたいてい腕が首に絡みつき、足まで捻って全力でしがみついているのだ。
しかも、めちゃくちゃ満足そうなアホ面で。
それはもうこの世の天国で安眠中ですってなマヌケ面で。
「ん……ぐぅ」
「……クソ勘弁しろって話ですよね」
意識のないワンコロにスリスリと擦りつかれ、朝日が昇ると同時かその前に起床する俺は、死んだ目でボソリと呟く。
毎度毎度呑気な顔で眠っているが、こちとら理性強化試験を受けた覚えなんてない。
そう思うとイライラしてできることならこのままブチ犯してやりたいと思うけれど、それと同時に「この人、俺のことすっごい好きなんだろうなあ……」と考え直して、すんでのところでこらえていた。
まぁたまーにムラっとしてそのまま性的なイタズラをすることもあるけど、問題なし。
この人、滅多に起きないからね。
一回寝たら爆睡するタイプなんで、サクッと据え膳のご相伴にあずかる。
ほら、問題なし。
年下のカワイイカワイイ恋人の甘えくらい、大人な先輩は笑顔で許してくれるでしょ。なんせクソガキなんで? 若いんで? 性欲は我慢できないなぁ。くくく。
寝ているはずの先輩から「乳首に低周波装置つけて開発すんのがカワイイ甘えなわけねぇだろ仙人でもキレるわッッ!!」と唸り声が聞こえる気がするが、気のせいだ。
無許可で人に全力ハグをかます先輩と違って寝相がすこぶるイイ俺は、性根も真っ直ぐな優しさでできている。細かいことは気にしないし、異論も認めない。ね。
「だからいい加減にしねーと、次は耳に挿れられて感じる体になっちゃいますよ」
「……んぅ……」
「ねぇ、聞いてます? 本当に、俺はやるって知ってるでしょ」
──そういう俺が、好きなんだから。
勝手に俺の肩を枕にして安眠している先輩へ、そっと囁く。
返事がないってことは、希望ってことか。なるほどね。じゃあ合意の上だ。拒否権はなくなる。
暴君解釈だなんて言われたところで知ったことじゃない。
あんただけが俺を簡単にその気にさせられるくせに、そのあんたが不用意に大好きだってわかるようにしがみつくなんて、誘ってんのと同じなの。
だから素知らぬ顔で先輩の安眠を妨げて、その甘ったれた顔を官能の熱で染めてやろうとする。──でも。
「ん~……みはじめ……動くな……俺といろ……」
「……。……はいはい。ここにいますよ」
それをわざわざ我慢して頭をなでてやっている俺の苦労なんか、この人は知らずに呑気な寝顔で甘えてきた。
こんなに寝相の悪い人は、この世でたぶんこの人だけだろう。
簡単に引き寄せて、簡単に縛り付けて、いつも俺は被害者だ。
「ずっとそばにいてあげます。その代わり……嫌だって泣いて暴れられたって、絶対あんたから離れてあげない」
「ふ……ぅ、ん……」
寝相の悪い御割先輩の被害者は、未来永劫、俺だけなんだよね。
了
ツイッターに掲載したSSでありますぞ。
短いお話でもうしわけない。しかし、本編に引き続き番外編をお楽しみいただきありがとうございました。とってもハッピーであります。
木樫
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