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【先輩は綺麗でいながら 4】
◆fujossy様ユーザー企画投稿作品
★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★
【キーワード】
①プール
②読書
③先輩後輩
隣を歩く、浅水先輩を見つめる。
──ヤッパリ、浅水先輩はカッコいい……っ。
焼けた肌は、浅水先輩が水泳を頑張った証だ。好感しか持てない。
真っ直ぐに前を見つめている目も、いいなと思う。姿勢も、いい。
一ヶ月以上、まともに触れ合っていない相手を見つめていると……なんだか、妙な気持ちになってくる。
「岡本」
ポォッと見つめていると不意に、浅水先輩から名前を呼ばれた。
「はいっ?」
「明日、午後って予定ある?」
明日は、土曜日。……丁度、なんの予定も入っていない。
俺は浅水先輩に対して、小さく頷く。
「いえ、空いています」
俺の返事を聞いて、浅水先輩が視線を向けてくれる。
「明日の練習は午前中だけなんだけど、午後から図書館にでも行かない?」
「浅水先輩が、図書館……ですか」
「なにが言いたのかな、その顔は?」
目を丸くした俺を見て、浅水先輩がムッとした表情をしながら、俺の頬を人差し指でつついた。
「す、すみません……予想外で、つい」
「こういう時は素直だなぁ」
人差し指の先端で、頬をグリグリと押してくる。子供っぽいことをしてくる浅水先輩も、嫌いじゃない。……むしろちょっと、可愛いかもしれない……っ。
決して、浅水先輩を馬鹿にしたつもりではなかった。が、浅水先輩からしたら小馬鹿にされたと思ったかもしれない。だから、ちょっと拗ねたような顔をしているのだ。その様子が、なんだか可笑しい。
きっと、俺に気を遣って図書館を選んでくれたのだろう。……もしかしたら受験生だから本を借りたかったのかもしれない。
けれど、どちらにしても嬉しいのには変わりなかった。
「ふふっ、すみません。……明日の午後ですね、分かりました。……あはっ」
「ムカつくなぁ」
「いた、いたたっ」
遠慮なく人差し指をグリグリされて、俺は思わず痛みを訴える。それを聞いて、浅水先輩が指を離した。
「なんだったら、見学に来てもいいよ」
水泳部が、土曜日に練習をするとき。プールサイドにある椅子に座って、見学をしてもいいようになっている。
大会前の大事な練習は、部員の集中力を乱さないようにと、見学はできないけれど。……見学ができるということは、どうやら近日中に大会は予定されていないようだ。
見学をするための条件は、ふたつ。ひとつは、同じ高校の生徒であること。それともうひとつは、制服を着用することだ。それさえクリアしていれば、部員の邪魔にならない範囲で見学ができる。
見学解禁初日は浅水先輩を一目見ようと女子生徒が多いだろうが、男子生徒がいないわけでもない。
「気が向いたら、行きます」
わざわざ制服を着て出掛けるのは気乗りしないが、できるだけ前向きに考えよう。
そうこうしていると、分かれ道に着いてしまった。浅水先輩が立ち止まって、俺を見つめる。
「家に着いたら、ちゃんと連絡するように」
まるで子供に言い聞かせるかのような、優しい声色。
「はい」
明日も、会えるのに。
いつもここに着くと、寂しい気持ちになってしまうのは……女々しい、のだろうか……?
けれどそんな雰囲気を悟られないように、俺はポーカーフェイスを気取る。
「じゃあ、また明日」
「はい」
頷くと、浅水先輩の手が数回だけ、俺の頭をポンポンと優しく撫でた。
しばらく見つめ合ってから、どちらからともなく背を向けて歩き出す。
「……明日、絶対昼前には起きよう」
そんな低い目標を口の中で決意し、俺は家に向かった。
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