16 / 29

【先輩は綺麗でいながら 4】

◆fujossy様ユーザー企画投稿作品 ★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★ 【キーワード】 ①プール ②読書 ③先輩後輩  隣を歩く、浅水先輩を見つめる。  ──ヤッパリ、浅水先輩はカッコいい……っ。  焼けた肌は、浅水先輩が水泳を頑張った証だ。好感しか持てない。  真っ直ぐに前を見つめている目も、いいなと思う。姿勢も、いい。  一ヶ月以上、まともに触れ合っていない相手を見つめていると……なんだか、妙な気持ちになってくる。 「岡本」  ポォッと見つめていると不意に、浅水先輩から名前を呼ばれた。 「はいっ?」 「明日、午後って予定ある?」  明日は、土曜日。……丁度、なんの予定も入っていない。  俺は浅水先輩に対して、小さく頷く。 「いえ、空いています」  俺の返事を聞いて、浅水先輩が視線を向けてくれる。 「明日の練習は午前中だけなんだけど、午後から図書館にでも行かない?」 「浅水先輩が、図書館……ですか」 「なにが言いたのかな、その顔は?」  目を丸くした俺を見て、浅水先輩がムッとした表情をしながら、俺の頬を人差し指でつついた。 「す、すみません……予想外で、つい」 「こういう時は素直だなぁ」  人差し指の先端で、頬をグリグリと押してくる。子供っぽいことをしてくる浅水先輩も、嫌いじゃない。……むしろちょっと、可愛いかもしれない……っ。  決して、浅水先輩を馬鹿にしたつもりではなかった。が、浅水先輩からしたら小馬鹿にされたと思ったかもしれない。だから、ちょっと拗ねたような顔をしているのだ。その様子が、なんだか可笑しい。  きっと、俺に気を遣って図書館を選んでくれたのだろう。……もしかしたら受験生だから本を借りたかったのかもしれない。  けれど、どちらにしても嬉しいのには変わりなかった。 「ふふっ、すみません。……明日の午後ですね、分かりました。……あはっ」 「ムカつくなぁ」 「いた、いたたっ」  遠慮なく人差し指をグリグリされて、俺は思わず痛みを訴える。それを聞いて、浅水先輩が指を離した。 「なんだったら、見学に来てもいいよ」  水泳部が、土曜日に練習をするとき。プールサイドにある椅子に座って、見学をしてもいいようになっている。  大会前の大事な練習は、部員の集中力を乱さないようにと、見学はできないけれど。……見学ができるということは、どうやら近日中に大会は予定されていないようだ。  見学をするための条件は、ふたつ。ひとつは、同じ高校の生徒であること。それともうひとつは、制服を着用することだ。それさえクリアしていれば、部員の邪魔にならない範囲で見学ができる。  見学解禁初日は浅水先輩を一目見ようと女子生徒が多いだろうが、男子生徒がいないわけでもない。 「気が向いたら、行きます」  わざわざ制服を着て出掛けるのは気乗りしないが、できるだけ前向きに考えよう。  そうこうしていると、分かれ道に着いてしまった。浅水先輩が立ち止まって、俺を見つめる。 「家に着いたら、ちゃんと連絡するように」  まるで子供に言い聞かせるかのような、優しい声色。 「はい」  明日も、会えるのに。  いつもここに着くと、寂しい気持ちになってしまうのは……女々しい、のだろうか……?  けれどそんな雰囲気を悟られないように、俺はポーカーフェイスを気取る。 「じゃあ、また明日」 「はい」  頷くと、浅水先輩の手が数回だけ、俺の頭をポンポンと優しく撫でた。  しばらく見つめ合ってから、どちらからともなく背を向けて歩き出す。 「……明日、絶対昼前には起きよう」  そんな低い目標を口の中で決意し、俺は家に向かった。

ともだちにシェアしよう!