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【先輩は綺麗でいながら 5】
◆fujossy様ユーザー企画投稿作品
★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★
【キーワード】
①プール
②読書
③先輩後輩
低い目標。……そのはず、だったのだ。
「──嘘、でしょ? 朝の、七時……っ?」
あまりにも健康的すぎる目覚めに、スマホで時刻を確認しながら、げんなりする。
普段の休日なら、早くても九時に起きる俺だが……七時ってなんだよと、思わず自分で自分にツッコミをいれてしまう。
昼前に起きようと意識しすぎて早起きしてしまったのか、それとも別の理由か。
「馬鹿馬鹿しい……っ。浮かれすぎだろ、俺……っ」
久し振りに、浅水先輩と一緒にゆっくり過ごせる。……どうやら俺は、相当楽しみにしていたらしい。
驚くくらい目が冴えていて、二度寝する気にはなれない。
朝ご飯を食べた後に高校へ向かえば、八時から始まる水泳部の練習を最初から見ることができるだろう。
けれど俺は、途中から見に行こうと思っている。練習開始と同時に見学している生徒もいるにはいるが、その時間には行きたくない。
……なぜなら、浅水先輩に物凄くからかわれそうだからだ。
そうなると、朝ご飯以外のなにかで時間を潰さないといけない。俺はすぐさま、机の上に置いた図書室で借りた本に視線を向ける。
読書という手もあるにはあるが、気乗りしない。……これまた理由は単純で、集中して読めそうにないからだ。
上体を起こして伸びをする。そうすると、やりたいことがひとつだけ思い浮かぶ。
「お風呂にでも入ろうかな」
昨日の夜にも入浴はしたが、夏は夜でも十分に暑い。寝ているときにかいた汗を流しておくのは、なかなか有意義な時間の使い方な気がする。
そうと決まれば、行動あるのみ。着替えとして制服を手に取り、俺はリビングに向かう。
リビングに辿り着くと、まずは制服を脱衣所に置いておこうと思い、脱衣所へ直行。
「あら、洋図。早いわね。おはよう」
「母さん、おはよう」
制服を置いてからもう一度リビングに向かう。すると、母さんが食卓テーブルの椅子に座っていた。
冷蔵庫から菓子パンを取り出して、母さんの正面に座る。母さんはニコニコしながら俺を見て、コーヒーカップを手に取った。
「今日も水泳部の見学?」
「うん」
菓子パンを頬張り、母さんの問いに答える。
母さんは相変わらずニコニコしながら俺を見ていて、男子高校生としてはなんだか落ち着かない。
「高校でも水泳部、入ったら良かったのに」
そう言って母さんは、コーヒーカップに口をつける。
……ふと、プールの中で優美に泳ぐ浅水先輩を思い出す。
菓子パンを食べ終えて、俺は小さく笑った。
「いい。俺は、見ているだけでいいから」
椅子から立ち上がり、そのまま脱衣所に向かう。
……中学時代俺は、水泳部に所属していた。
それは水泳が好きだというわけではなく、中学校の決まりことで仕方なかったからだ。
俺が通っていた中学校では、生徒は必ず部活に所属しなくてはならない。そんな決まりがあったせいで、俺はやりたくもない部活動をやるハメになった。
そこでなんとなく選んだのが、水泳部。
──そして……そこで知り合ったのが、浅水先輩だ。
中学生の頃から群を抜いて泳ぎのうまかった浅水先輩は、ヤッパリ人気者だった。あの頃から、女子生徒にキャーキャー言われていた気がする。……そして、今と変わらず浅水先輩本人は、気にしていなかった。
誰よりも綺麗なフォームで泳ぎ。
誰よりも速く、ゴールをする。
そんな浅水先輩に、俺はいつの間にか……。
──惹かれて、いたのだ。
真っ直ぐに目標へ向かって努力をする浅水先輩に追いつこうと、一時期は必死だった。そんな俺の努力は、別の結果で実ることとなったけど……。
浅水先輩の次か、もしくは同じくらい練習に励む俺を見て。
──憧れの浅水先輩が、俺に興味を抱いてくれたのだ。
他人にあまり関心を抱かない浅水先輩が、俺の練習を見てくれた。
自主練習が終わったら、途中まで一緒に帰ってくれたりするようになって……。
信じられない話だとは思うが、二人の時間が増えていったのだ。
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