いちごさんに言われた通りカギ閉めたけど、 「来るわけない、よな」 　ベッドの上に座り、布団で体を覆う。 ―――― ピンポーン 「圭、いないのか」 　プルプル 　この音って、もしかして俺の携帯！？ 「やっぱり、いるんだな。なんで返事しないんだ」 　聞いた事のないような低い声。 　キスをされたあの日よりも、底冷えする様な声。 「圭、あけて」 「い、やだ」 「なんで？」 「そ、れは」 「いちごさんに言われたから？」 「えっ、どうして」 「埒があかないや、話しにくいし」 　――――ガチャ。 　ドアが開く音がした。 「なんで！？　締めてあったのに」 「やっぱり、俺が来るの分かってて閉めてたんだ」 「ちがっ、それよりなんで鍵は」 「あぁ、鍵ね。持ってるんだ合鍵」 「渡した覚えない」 　奏汰から、離れようと一歩ずつ後ろに下がる。 「ああ、そうだな。俺がつくったんだよ」 　背中が壁にあたる。 　近づいてくる奏汰逃げようと、身体を動かす。 「駄目だよ、圭」 　ドンという音と共に、頭の両隣に置かれた手。 　壁ドン。 「に、逃げてなんか」 「そう？　じゃあ聞くけど、なんで避けたの」 「そ、れは……」 　見つめてくる奏汰の視線から逃げようと、目をそらす。 「奏汰が、あの日……キ、スなんてするから」 　少しずつ小さくなる声。 　なんで、こんな怒ってんの。 「あぁ、もしかして憶えてないって言ったこと？」 「っ、やっぱり憶えたんじゃ」 「圭の反応が可愛くてさ、いじわるしちゃった」 　おちゃらけた様子で笑う奏汰。 「でも、」 　笑うのを止めて、熱のこもった瞳で見つめてくる。 「なんで、こんな。鍵の事といい、おかしいって」 「俺には…お前だけだ」 　頬を触れてきた奏汰の手は、冷たい。 「お前だけなんだよ、圭」 「奏汰には、俺以外にもいっぱいいるだろ」 「圭が俺って言い始めたのも、俺のためだろ？ 　前は、僕って言ってた。 　可愛かったのに、大学に入ったらイメチェンするし」 「それは、」 「俺自身を見て、接してくれたのは圭だけだよ」 　頬に置かれていた奏汰の手が背中に回る。 　強く抱きしめてくるその力に、圭は気づいた。 「大丈夫だよ、奏汰」 「証拠は？」 　先程とは打って変わり、迷子の子供ような顔で見つめてくる奏汰。 「……キスの事、憶えてないって言われて悲しかった。 　気まずくなって、今までみたいに話せなるのが嫌だからだと思ってた。 　嫌じゃなかったんだ。奏汰にキスされたの。 　それに気づいたら、会うのが恥ずかしくなって避けちゃったんだ」 「っ、」 「なんでなんだろうって考えたんだ。 　……好きなんだと思う。奏汰の事が」 　恥かしくなり、赤くなった顔を奏汰の肩に埋める。 「それって、告白？」 「それ以外、何に聞こえるの？」 　顔、熱い。 「…俺、今お前に殺されかけた」 　顔を上げて、奏汰の顔を見る。 「奏汰、顔真っ赤だね。ふふ、かわいい」 「あぁ……もうそれでいいよ」 　赤くなった顔を覆う奏汰。 「じゃあ、俺たち恋人同士だね」 「う、うん。そうだね」 　急に顔を上げた奏汰。 「じゃあ、これからは飲み会とか行っちゃ駄目だからね 　女の子と連絡先交換するのも、二人で会うのも禁止だよ。 　約束だからね」 　笑顔を浮かべながら話す奏汰。 「わかった」 「良い子だね、圭。 　約束破ったら、お仕置きだからね」 「うん」 　有無を言わせないその顔に、「はい」以外の選択肢はなかった。 「じゃあ、お仕置きしなきゃね」 「えっ」 　カチャ。 「奏汰、これって……」 　両手に付けられたのは、手錠。 「飲み会に行った事と、避けた事へのお仕置き」 「か、奏汰」 「大丈夫だよ、圭。明日の朝まで良い子でいれたら、外してあげ るから」 笑顔で話す奏汰のと、自分の腕につけられた手錠を交互に見る。 「逃がさないよ、圭」 　夢なら覚めてくれと、頭の中で叫んだ。 　でも、手首から感じる鉄の冷たさが、現実だと伝えてくる。 「わからせてあげるよ、僕がどんなに圭の事が好きなのか」 　それからの記憶は、あやふやだ。 　でも、確かな事は俺が奏汰のものになったと言うことだ。 　手首についた赤い痣を見るたびに、あの日の事を思い出してしまう。 　まるで、鎖のように。 「圭、行くぞ」 「うん」 　だけど、それが嫌じゃないと思ってしまっている。 　例え、それが歪でも、奏汰が傍にいてくれるなら。