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2ー2
「情けを掛けるな…」
滞る下界に響く、低いバリトンの声音。
「一つ残らず狩れ!さぁ、ショータイムの始まりだ」
男の命令に、黒い羽根を生やした者達が下界に住む人間の魂を狩りに出かける。
不適な笑みを溢しながら、彼は待っていた。
人間が危険な状態だと知れば、彼等は必ず動き出す。
ー…長年と続いてきた闘い。
早々に停滞するなど有り得る筈もない。魔族は遊ぶ事が好きだ。
人間を玩具の様に、甚振り、陥れ、最後は魂諸々と頂く。
これは男にとっても狩りに行った者達にとっても、遊戯の一環にしか過ぎない。
雲から降り注ぐ大きな粒は、軈て、男を濡らしていく。ブルーグレイ色長い髪の先から滴る雫。
精悍な顔が大人の色気を醸し出している。
「楽しい遊戯(ゲーム)にしようじゃないか」
男は高らかに嗤った。
天高くに聞こえるように…。
これから、起こる不吉なクラシックが流れるのを彼は感じ取った。ショパンの代表曲とも言える『プレリュード』は素晴らしくって、耳に残る曲だ。
興奮とも云えぬ、疼きが体内から、じわりと沁み出てくる感覚を覚えた。
今宵、勝算すれば…。
鮮血にも似たボルドーワインを飲むとしよう。
芳しく、ブラックチェリーの芳香が漂うに違いない。
赤ワインの中でも最高級の物を選ばせ、友と一緒にお祝いだ。
アイツにピアノを弾かせよう。
ショパンのプレリュードを。
聡明に広がるオーケストラが男の脳内に流れた。指揮者が指揮棒(タクト)を振りかざし、曲の始まりの合図をする。
まるで、運命を奏でているかの如く。
静寂な会場は一斉に壮大な音色が響き渡り、圧巻させられた。十九世紀あたりに一度だけ拝見させてもらった事があった。
あれは、雨が降り続く夜の事だった気がする。
不鮮明ではあるが、あれが“雨だれの前奏曲”だった様な。いや、プレリュードだったかも知れない。
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