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2ー6
ー下界
空は稲光を放つ。
ゴロゴロと暗雲の中を凄まじい数の雷が滞っている。
男はまた、にたりと嗤う。
「悪戯には、ピッタリな雨だ」
そう呟いた瞬間に、ザァザァと音を変えていった。
「ー…お出ましか」
暗雲の隙間から白き羽根を広げた兵士天使を視界に捉えた。兵士天使は、直ぐ様に分かれていく。
今回の指示を出した者は相当、頭の回転が早いらしい。
隙すらない的確な指示をしている。
散らばった下級悪魔を一匹残らず死滅させる手段だろうか、兵士天使達が一気に急降下していった。
「ミカエル、ラファエルでもない」
これまで、兵士天使に指示を出しているのは大方、七大天使の長を努めているミカエルか牙を剥き出しのラファエル。
後は、サキエルぐらいだと頭で反芻する。
だとしたら、逢っていない大天使だと把握出来た。何故なら、男は既にミカエル達の戦闘方法を見切っていたからだ。
「貴方が、あの下級悪魔達に指示を出しているものですか」
「…」
ひらひらと白き羽根が辺りを包み込む。柔らかなソプラノボイス、雨に打たれながらも煌めく髪。
白い制服は華奢な体躯を強調している上に妙な色気を感じさせる。
視線を顔に向ければ、綺麗なエメラルド色の双眸が真っ直ぐと男を見ていた。
「ゼウダー卿…」
名を知っている事に少々、驚きながらも彼は微笑を湛えた。
「我の名を知っているのか。七大天使の一人だな」
「これは失礼致しました。私の名は、ウリエルと申します。以後、お見知りおきを…」
ゼウダーが名を聞くと、ウリエルは律儀にお辞儀をした。
その行動は益々、彼を驚かせる。
今までの大天使達はウリエルみたいな挨拶は無かった。
肘を付き、彼は次なる曲を自分から奏でてみたくなった。目の前に佇む男が真摯な眼差しを向けているせいだろう。
演目は、此方のペースに持ち込むなら淫らな情景を描く。
裸体はシルクのシーツにくるまれ、足は恥ずかしそうに絡めて欲しいのが本望だが、生真面目な彼は断りそうだなと微笑する自分が心の中に居た。
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