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第1話 禁断の苺

「ねぇ、知ってる?」 「なになに?」 『それでは、次のニュースです、××町で男性の遺体がーーーーーー』 車の音、ガヤガヤとする人間の煩わしい程の生活音( ざつおん)で紛れ消えるニュース この世界にはーー 「」 と呼ばれているドラッグが、水面下で浸透しているーーー ***** ーー某所、マンション室内 「今回だけで、4件だ」 そうボヤキながら、俺は書類をテーブルに投げ置いた。 「〝禁断の苺〟その味は…快楽( だらく)の味、かーーー」 実物は見た事がない、だが、赤く熟れて凄く魅惑的と聞いた事がある。 甘酸っぱい汁を含んだ〝禁断の苺( ドラッグ)〟 俺は、もし、俺の前に差し出されたら…俺はーーー 「南訪(なとい)ー!馨唯(かい)さんから電話!」 バタバタと忙しく足音を立ててやって来た少年を見遣る。 「(めい)、危ないから落ち着いて歩け」 「ん、はーーーい」 莓は、ソファの背に腕を乗せながら俺に子機を差し出してきた。 「馨唯?」 子機を受け取ると耳にあてる。 『もしもし、南訪くん?』 穏やかな声が耳に届く。 「どうした?」 『今日のさぁ、仕事なのだけど…どうやら、のお気に入りだったらしくてーー』 「ーまさか!!!したか?!!」 ひと呼吸の間の後 『ご名答~、だから今日の仕事は無しだよ、じゃっ』 彼は、そう告げるとコチラの返答を待たずに、電話を切ってしまった。 ツーッツーッと鳴る子機をテーブルに置く 「これで、5人目だーーチッ」 悔しさから舌打ちを鳴らす。 「なぁー、南訪。〝舞姫〟とか〝嫁入り〟とか言ってたけど、何それ」 淡い髪色をした少年が、不思議そうに首を傾げながら俺を見遣る。 「莓」 名前を呼びながら鼻の頭を人差し指で、チョイと突く。 「は知ってるだろ?」 「うん、あのだろ?」 「そう、アイツがバラ撒いてる禁断の苺(  ドラッグ)を食べているのが女なら〝〟、男なら〝〟と俺達は呼んでいる」 莓は小首を傾げながら「ふぅん」と鼻を鳴らす。 「じゃあ〝嫁入り〟ってのは?」 愛嬌のある顔で莓は笑う。 俺は毒気を抜かれた様に脱力すると、莓の眼を見て口を開いた。 「〝嫁入り〟とは、その苺を食べた奴等の中で、〝主導者様〟の〝お気に入り〟になった人物の事を言うんだ」 「へぇ…あっ!!!」 莓は何か閃いたといった感じで手を叩く。 そしてー 「女だから、嫁入り?」 そのセリフに「ふっ」と口元が緩む 「そうだ」 「男なら…」 「〝婿入り〟だ」 さっきまでの怒りが嘘の様に引いていく。 「えっ、待って!待って!さっきさ、仕事は無しって…」 莓の瞳が輝く。 「あぁ」 俺の答えを聞くと莓は更に瞳を期待に輝かせて俺を見た。 「やっーー」 「…すまない、大学へ行く」 「ーっ」 まさに天国と地獄、その表現がピッタリだというように、莓の表情は曇ってゆく。 今にも泣きそうな顔に、そっと手を充てると顔を覗き込む。 「莓、そんな表情(かお)、しないでくれ」 莓は俺の手を震えながら触る 「大学、仕事、大学、仕事…」 「莓?」 「それの繰り返し…じゃん」 「……」 声が上擦っている、相当溜め込んでいたのだろう。 「ちょっとは!!構ってくれよ!南訪!!」 頬を伝う涙を指で掬うと、俺は莓を抱き締めた。 「莓…すまない」 「なと、い」 莓をそのまま抱き上げ、寝室へと向かう。 俺の動きで、何が待っているかを悟ると莓は頬を赤く染めた。 ベッドに莓を沈ませると上に跨る。 「構ってくれるの?」 「あぁ…」 服に手を掛け丁寧に脱がしながら俺は頷いた。

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