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第2話 禁断の苺②

ーーー某大学、中庭 「三橋( みはし)」 大学に訪れた俺は、脚を組みながらベンチに座っている赤毛の男に声を掛けた。 男は口に咥えていた煙草を、人差し指と中指に挟んだ後、蛇の様な瞳に俺の姿を映した。 そして微笑む。 「あれ、南訪くん、こんにちは」 煙草を一服、吸った後 「んーー、機嫌悪い?」 小首を傾げながら俺に問う。 俺はその問いには答えず、三橋に紙切れを差し出した。 「調べて欲しい事がある」 三橋の口許が緩む 「Combien( い く ら)?」 「ーー30でどうだ?」 俺の提案した数字を聞くと小さく首を縦に振り 「Oui(いいよ)」 そう承諾すると、差し出された紙切れを受け取った。 「ーーで、ガッコに来る前にイチャついてたのかな?」 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺の首筋を指差す。 「、がついてるよ」 パッと指差された箇所を手で押さえた。 「莓が、ダダをこねて…」 「へぇ、可愛いね」 三橋は煙草を咥え、ベンチから腰を上げた。 「でもさ」 パーカーのポケットに手を突っ込み、俺を哀れんだ目で見遣る。 「甘やかし過ぎじゃない?ーー」 〝お義兄ちゃん〟 そう、俺はーーついこの間まで、莓のだった。 「今は恋人だ」 「ふぅん、恋人、ねぇ」 「いつまでに調べられる?」 何かを言いたそうな素振りを見せる三橋を押さえ込む様に俺は口を開く 三橋は、ペロリと舌を舐めると瞳を細める。 「僕だよ?」 「明日か?」 三橋は俺の言葉に「ハハッ」と笑った。 「だ」 堂々と言ってみせる三橋のソノ姿に、俺はゾクリと震えた。 「お金、用意しときなよ?」 紙切れをチラつかせ挑発してくる。 「ーはは、流石だ」 この男は敵に回したくない。 強くそう思う。 「頼りにしてるよ、情報屋( スリジエ)」 情報屋ースリジエ 三橋の裏の名前を呟く。 三橋は片手で、ヒラヒラと手を振ると大学を後にした。 ***** ーー某所、マンション室内 「ん、南訪ぃ…?」 莓が気怠い体を起こして俺の名前を呼ぶ。 「起きたか?」 ベッドに腰掛けると、莓の頭を撫でた。 莓は嬉しそうに瞳を細めながらソレを受ける。 「へへ、南訪のせーえき、沢山貰えた…」 お腹を撫でながら莓は恥ずかし気も無く言う。 「そういう事を言わない」 こつん、と莓の額に自分の額を充てる。 「へへ、ごめん」 「……まったく」 「南訪、照れてるだろ」 図星を突くとはこの事を言うのだろう。 莓は俺に抱き着くとふふっと笑った。 「夜、三橋と会う約束をしてる」 「三橋と?」 「あぁ、仕事だ」 〝仕事〟その言葉に莓は察したのか、小さく頷いた。 「場所は?いつもの場所?」 情報が集まったら、三橋から連絡がある筈だ。 念の為に馨唯にも連絡をした。 落ち合う場所はーーーー 「あぁ、BAR-la fraise noire(ラ・フレーズノワール)」 la fraise noireは、三橋の様な情報屋や俺達の様な仕事をする人間が集まるBARである。 「あそこ未成年は入り難いんだよなぁ」 「まぁ、酒場だからな」 (特別(れいがい)は1人いるけど) 「南訪と離れたくねぇけど、仕事の邪魔もしたくねぇから…お留守番してる」 莓は俺の首筋を噛みながら呟く。 「俺も…莓にはあんな場所に行って欲しくない…お前は…綺麗なままでいてくれ」 数秒の沈黙の後 「…バカだな…俺なんかより…南訪のがだよ…」 そう囁く莓は何処か哀しそうだった。 「め…」 「ほら、こんな素性も明らかになってない俺を路上で拾っちまうんだから!」 無邪気に笑う莓に、俺の胸は少し騒ついた。 莓は雪が降っている日に路上で佇んでいた所を、ほっとけなくて連れて帰ってきたのが出会いだった。 その時の莓は、生気さえ感じ取れないくらいナニカが欠落していたのを未だに忘れない。 今、こんな風に笑っているのが不思議なくらいだ。 「俺は綺麗じゃないよ」 莓の頭を撫でる。 優しく、優しくしてやりたい。 「へへ、なぁ、晩飯、何にする?」 「何でも良い、莓のご飯は美味いから…」 俺の言葉に莓は嬉しそうに笑みを浮かべる その顔が凄く愛おしいと感じた。

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