8 / 8
最終話
「こんなの、こんなの違う……俺は、俺は……!!」
「お、落ち着いて智紀くん、僕は大丈夫だから」
智紀はひどく混乱し、狼狽していた。しかし、こんな状況だというのに下半身が反応を示し、勃起している。そして萎えることなくさらに硬さを増していった。恋人の首を絞めて興奮しているかと思うと、吐き気が襲ってくる。
「なんで、なんでっ……!? くそ、おかしいだろ、ッ……くそ!」
興奮を収めようと、何度も拳で膝を殴りつけた。自分への怒りと恐怖でいっぱいの智紀は、激情のままさらに暴れだしそうだった。
そんな時、振り乱していた頭を掻き抱かれて、薄い胸に頰がぴたりと触れた。葵がパニックに陥った智紀を抱きしめたのだ。甘い香りとぬくもりで、心を乱した智紀は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
大丈夫、大丈夫、と囁かれ、智紀はこみ上げてくる涙を抑えきれなくなってしまった。
「――深呼吸して、落ち着いて」
「あ、おい、さん……」
「さっきはごめんね、叩いたりして」
昂ぶった感情が少しずつ溶けていく。落ち着いていくと同時に、智紀の心は申し訳なさでいっぱいになっていた。こんなことをするつもりなんかなかった――そんな言い訳をしたところで、実際に首を絞めてしまった事実は変わらない。開いた口からは、謝罪の言葉しか出てこなかった。
「ごめんなさい……ひどいことして、ごめんなさい……」
「大丈夫、大丈夫だよ。謝らなくていいから」
まただ。葵はまた、とんでもないことをした智紀を受け入れた。あんなに恐ろしいことをしたのに、葵は智紀を拒まない。いっそのこと罵られ、切り捨てられた方がましだった。
「葵さん……俺には……貴方だけなんです。本当に、愛してるんです。でも俺、一度気持ちに火がつくと自分が抑えられなくて、今日なんてこんなひどいことして……」
智紀は華奢な葵に抱き縋って泣いていた。情けない姿を見せても、葵は体温を分け与えるようにあたたかく包み込んでくれる。
優しさがこれほどまでに痛いなんて、初めての感覚だった。
「こんな俺は、あなたに相応しい男ですか……? こんな、どうしようもないクズと一緒にいて、葵さんは幸せなんですか……?」
「幸せだよ」
「えっ?」
予想外の言葉が返ってきて、智紀はさらに混乱した。
どう足掻いても肯定的な言葉は返ってこないと思っていた。なのに、葵は微笑んでいる。愛し合ったあとに見せる穏やかで、柔らかな微笑みだ。
智紀はそれが信じられなかった。
「僕に欲情して、我を忘れて求めてくれる智紀くんの、そういうとこ、好き」
顔を上げた智紀の唇に熱い唇が触れる。ちゅ、ちゅ、と音を立てて与えられるキスは、少しずつ濡れた音を立てて深い口づけへと変化していった。
「んん……っ」
くぐもった声と乱れた呼吸の音だけが部屋に響く。
葵の手が小刻みに震えていた智紀の手に絡みつき、ぎゅっと握られた瞬間に智紀の心に甘やかな感情が湧き上がった。
葵の言葉に嘘はない。この温もりも、口づけも、全部真実だ。真実なのだ。
「愛してるよ、智紀くん。さすがに息ができないのは苦しかったから、さっきは逃げちゃったけど。でも、いつも全力で愛してくれる智紀くんが、僕には必要なんだ。だから、怖がらないで」
「……葵さん」
「それに、僕って少し……乱暴にされるくらいが好きだから」
恥ずかしさのせいなのか、少しひそめられた声に欲望が昂る。さっきからもじもじと太股をすり合わせているのは、きっと勃起を隠そうとしているのだろう。
「だからさ、怖がらないでいいんだよ。いっぱい愛し合おう?」
もう、我慢なんてできなかった。早く葵とひとつになりたい。めちゃくちゃに壊れるまで、愛し合いたくてたまらない。
「葵さん……俺も、愛してます……!! 貴方が欲しくて、もう我慢できません……っ」
「うん……いいよ、来て」
心が繋がりあった今、恐れるものはもう何もなかった。
ともだちにシェアしよう!