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第7話
「葵さんッ……!」
「わ、わっ」
慌てる葵をベッドに押し倒し、両手を絡ませながら性急に唇を重ねる。
唇を離すと、こちらを見つめる葵の瞳が揺れていた。その弱々しい瞳が智紀の無意識の嗜虐心を煽る。
気がつけば、白いシャツの裾から手を差し入れ、乱暴な愛撫を始めていた。
――違う。そうじゃない。冷静にならないと……。
しかし、一度火がついた欲望は止まらない。いけないと思いながらも智紀は激しい口づけを何度も繰り返し、葵の呼吸を奪った。
「っ、は……ぁ……はぁッ……!」
「んは、っ……智紀くんっ……」
苦しげな葵の顔が美しくて、智紀はその表情に見入ってしまった。
頭の中で「違う、違う」という言葉が反響する。それでも葵の誘い込むような瞳が容赦なく智紀の心を歪めていった。
欲望が、止まらない。
自分では止められないのだ。葵を愛しすぎて、ただ求めるままに動いてしまう。衝動は智紀の脳を焼き切るほどに激しく、狂おしく、とどまることを知らなかった。
「葵、さん」
その瞬間、目に入ったのは白く細い喉。
唾液を飲み込む時に上下する喉仏。
――美しい。葵の何もかもを自分のものにしたい。
それがどれほど異常なことか、もう考えることもできなくなっていた。
簡単に瓦解する智紀の理性。それを目の当たりにして、葵は一体どう感じているのだろうか。
「と、も……っ」
首に巻きつけた腕にぐっと力を入れる。喉仏を潰すように首を締め上げたら、どんな風に乱れてくれるだろうか。
「っ、ぁ……あ……!!」
葵の表情が少しずつ苦しみに歪み始めた。
壊れている。狂っている。愛しい人になんということをしているんだ。
智紀が平静でいられたら、きっとそう思っていただろう。しかし、葵の滑らかな白い肌と濡れた瞳が、智紀を狂気へと誘う。獣のような眼差しには、ただ欲望の色しか浮かんでいなかった。
「葵さん……葵さん……葵さん……」
うわごとのように何度もその名を呼ぶが、当然返事などなかった。
そのかわりに葵が首を横に振る。必死に身をよじり、華奢な手で智紀の手首を掴んだ。力一杯引き剥がそうとしているが、智紀の力には敵わない。
「あ、ぐ……!!」
「愛してます、葵さん」
「う――……っ、あああッ……!!」
叫びと共に、空気を裂くような音が部屋に響き渡った。
最後の力を振り絞って葵が智紀の頰を平手でぶったのだ。痛みより、葵の行動に驚いた智紀は手を離し、その手をじっと見つめた。そして逃げだすことに成功した葵は激しく咳き込みながら、酸素を取り入れようと大きく肩を揺らした。
「あ……葵、さん」
智紀はそこでようやく我に返った。自分がなんという凶行をしていたか、それに気づかされて顔面が真っ青になる。ベッドの端まで逃げて震える葵を見て、どす黒い恐怖心に包み込まれた。これはもう愛情表現なんかではない。ただの殺人行為だ。
「……あ、おい、さん……俺……」
目一杯、力を込めていた手が震えている。
「俺……いったい、なに、を……?」
我に返った智紀は葵のそばに近づこうとするが、恐怖の色を浮かべた葵に触れることさえできなかった。どうしてこんなことに。自分のせいだとわかっていながら、智紀は頭を抱えて唸り声をあげた。
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