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第6話

 その夜、智紀はバイト先である書店の駐輪場で葵と待ち合わせをした。きりりとした寒さに身を震わせながら、ブルーのマフラーで口元まで覆ってしまう。暖房の効いた店内に慣れていたせいか、気温の差が辛い。 「こんばんは、智紀くん」  振り返った瞬間、寒さなど忘れる笑顔と視線が合う。しかし、時間通りにやってきた葵はどこか疲れた様子だった。 「なんだか、ごめんね。どうしても……智紀くんと離れたくなくて」  会って早々に甘やかな言葉をささやかれて、心臓がどくんとはねる。 「行こっか」  どこへ、なんて確認しなくても行き先は分かっている。ここから少し離れた場所にある、繁華街のラブホテルだ。同じ場所を続けて使うことはしない。ふらふらと歩きながら、その時の気分でホテルを決めるのがふたりの習慣になっていた。 「あ、ここ……」  ふと葵が見上げて声を漏らしたのは、ふたりが初めて身体を繋げた場所だった。急にその時のことを思い出して、智紀は少し顔を赤らめた。 「……久しぶりに、ここにしよっか? 内装すごく綺麗だったし」 「そ、そうですね」  ドキドキしてしまって上手く返事ができなかった。智紀は押していた自転車を適当な場所に止めて、燃え上がりそうな心を鎮めようと大きく息を吐いた。 「あはは、どうしたの。緊張してる?」 「笑わないでくださいよー……これでも毎回、緊張してるんですから」  チェックインを済ませて部屋のドアを開けると、大きくてふかふかのベッドがあった。智紀はソファにバッグを置いて肩を回すと、なんとなく肩が軽くなるような気がして、ついでにグッと伸びをした。 「寒いとなんだか肩が凝りますね」  コートを脱いだ葵は華奢な背中を智紀に向けながら「ほんと、そうだよねぇ」と答える。痩せた背中は頼りなく、智紀は今すぐその身体を抱きしめたい衝動に駆られた。 「――……葵さん」  後ろから包み込むように抱きしめ、白い首にキスをする。多分、葵は知らないだろう。首の後ろ、うなじの少し下に色っぽいホクロがあることを。白い肌に浮かぶそれはなぜだか智紀を興奮させる。 「葵さん……葵さん」 「智紀くん、シャワー……」 「俺とこのままするの、嫌?」  キスを止められない。柔らかな肌に触れる唇は心地よくて、早くベッドに沈みたくて仕方なかった。

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