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おまけ

 それは滝田の身に何か起きそうだという話を、子供の頃からの仲間三人が聞き及んだある日のことだった。  彼らは真相を探る為、滝田と個人的に親しくしている二つ年下の後輩を、贔屓にする紳士クラブに呼び付けた。それなのに、訳もわからずに慣れない席で(かしこ)まっている後輩を捨て置いたまま、三人で好き勝手に話し合っている。 「滝田ってさ、男遊びしていたか?」 「いいや、遊びも含めて、付き合ったのは女だけだな」 「この話、ガセじゃないのか?」 「それがそうじゃないんだな。相手の男を煽ったのが、滝田の天敵のあいつでさ、しかもだ、この件を宗谷さんに知らせて、前途ある若者の真剣な恋の邪魔をしてくれるなと伝えたってことだからな、間違いない話さ」 「なのに、勘のいい滝田が未だに何も気付いていないのか?」 「ああ、有り得ないよな?」 「その前途ある若者ってのは、少し前に滝田が雇った秘書なんだろう?こんなことになるなら、あいつの事務所に、足繁く通っておけば良かった」 「全くだ、今頃行ったんじゃ、あからさま過ぎて、前途ある若者の邪魔になってしまうよな」  彼らが残念そうに溜め息を吐くのを、意味もわからずに眺めていた後輩が、そこでやっと理解出来る部分を見付けたと、話に割り込んで来た。 「俺、知ってますよ、滝田さんの秘書君のこと。先週、事務所の方に、顔、見せに行きましもん」  三人が一斉に視線を後輩へと注いだ。彼らは矢継ぎ早に質問を投げ付け、返事にもたつく後輩を、次々と叱り飛ばす。 「だから、ちょっと挨拶しただけだし、どういう奴って言われても、わかんないって。優しそうな子だったってだけで……」  これが女なら細部にわたって語れたかもしれない。後輩が聞かせる話は、先輩三人が求める答えには程遠いものだった。 「他に何か特徴的なものって言われても……」  そこで思い当たったことでもあったのか、後輩があっと、どこか間の抜けた声を出した。 「そういえば、あの子、目が印象的だったな、笑うともっと優しい感じになるんだけどさ、真面目な顔をすると、切れ長の目がすごーく冷たい感じになっ……」  後輩に最後まで言わせる必要はないとばかりの勢いで、突然、先輩の一人が声を大きくして話し出した。 「ああっ、思い出したぞ。天敵野郎の店にいただろう?何年か前に、短い間だったが、切れ長の目の、アレがさ」 「そんなの、いたか?……っと、ああ、ああ、いた、いた。稀に見るいい体をしていたアレのことだろ?」 「それって、氷の女王と呼ばれていたアレのことか?」 「そう、そう、そいつだよ」 「あはは、なんだよ、そういうことか」 「天敵野郎がしゃしゃり出て来るのもわかるよな?」  そこからは、ニタニタ笑いながら三人だけで盛り上がっている。彼らの話に付いて行けずに、一人置いてきぼり状態の後輩が文句を言っても、彼らは僅かながらも取り合おうという気配さえ見せない。 「ぎゃあぎゃあ喚くな」 「大人の話に首を突っ込むんじゃない」 「子供はそこでおとなしくしていろ」  昔から子供扱いされていたが、学生時代の関係は幾つになっても変わらないものらしい。 「なんなんすか、俺だってもう三十過ぎてんすよっ」  後輩の抗議が黙殺されたのは、言うまでもないことだった。 「ちくしょーーーっ」

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