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RED 1

 今日も起きた瞬間から、彼を考えて幸せな気分になる。  僕が彼に出会ってから、一日も考えなかったことはない。男に一目惚れをするだなんて。考えられない事だった。  会っていても会えなくても、この胸の高鳴りはどんどん増すばかり。  この気持ちに区切りをつけよう。そう思った僕は電話を手に取り、彼の番号を表示させる。  昨日大学で別れたときには、今日は朝から出掛けると言っていたから、出ない可能性の方が高いけど。 『もしも~し、りっくん?』  4コール目くらいで、少し寝ぼけ声の君の声を聞いて思わずドキリとしてしまう。  もちろんそんなのバレたら恥ずかしいから、平然を装うけれど。 「あ、今大丈夫?」  大丈夫~、という声はやはり掠れている。今は昼の一時。もしかして寝てた? 「ごめん、起こしちゃった? ていうか出掛けるって言ってなかった?」 『んー……出掛けようとしたけど、気分乗らなくてやっぱ止めた。昨日も友達と飲んでたから、めんどくさくなっちゃって。どしたの?』  君は可愛らしく応える。  これは、チャンスだなと思う。  すかさず僕は君にお願いをする。 「じゃあ、夕方くらいから空いてるかな? ちょっと話があるんだけど。良かったら僕の家に来ない?」  すると沈黙が流れて、なんとなく君が電話の向こう側で息を飲んだ気がした。空気までもが一瞬止まったか気配がする。  あ、なんか用事あるのかな。 『いいけど、話って何?』  訝しむ声が聞こえてきて、ちょっと冷や汗。  ここは何も気付いていない振りをしよう。 「電話じゃちょっと。直接でもいい?」 『うーん……気になる。今言えないの?』 「うん。家に来てくれたら教えてあげる」  君は何度か食い下がってきたけど、僕は決して種明かしをしない。  僕の頑固な性格を知ってるからか、君はようやくふぅと一息吐いて、『分かった。じゃあ夜ね』と優しい声で言った。 「僕はいつでも大丈夫だから。ワイン用意して待ってる」 『うん、ありがと~。じゃあまた後で』  そう言って電話を切る。  君のふにゃりとした言い方も好きだ。僕に気を許してくれているようで。  これから来てくれる愛しい人に会えると思うと胸が高鳴った。  今日僕は、君に告白する。  君にどう思われても構わない。もうこの気持ちが抑えられないんだ。  告白なんて、何年ぶりだろうか。もう彼女がいない期間が長すぎて、忘れてしまった。  洗面所の前に立ち、髭を剃る。顔はなんだかニヤついてる。たぶんさっきの電話が嬉しかったんだ。  その滑稽な姿に思わず笑う。 「何が嬉しいんだか」  とりあえず、来てくれる事になって良かった。色々と準備しなくちゃな。そう思い、僕は支度を始めた。

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