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第7話
大概こいつも意地っ張りだ、なかなか口を割ろうとしない子供に俺は仕方なく助け舟をだす。
「悪いことしたら、まずなんて言うんだっけ? ちゃんと教えただろ?」
「俺は、悪いことしてねえ」
そう言い張るのはこいつが若いからか馬鹿だからか俺が甘いからか、さてどれだろう。
確かに、今回のことは、俺も二割くらい悪い。
んで、この駄犬が四割。
あとの四割は、本家の連中だ。
俺が社会人になり、シュンも安定している状態でいることに欲をかいた奴らが、俺のいない隙を狙ってしょうもないことを耳打ちし、崇め奉るべき象徴であり次期当主候補でもあるヤツを取り戻そうとしたというのがコトの顛末らしい。当主から今回の件の発端となった経緯を聞いた俺は、怒りのあまり机をひっくり返しそうになったのだが、机は重くてびくともしなかった。ついでに当主に相変わらず面白いヤツだと笑われた。そっちこそ相変わらずむかつく野郎だ。
なかなか口を割ろうとしない駄犬に、俺は結局、やれやれともう一歩譲歩してやる。やっぱ俺が甘いのか。
「俺が今更おまえを捨てたりするかよ」
「だって! 本家のヤツが……! 元々高校卒業するまでの約束だったって…! それにあんたは忙しいからもう俺の面倒見きれないって、そう言ったって! おまけに、俺がいつまでも居座ってたら女連れ込めないし、恋人だって作れないって……、お、俺は、あんたにとって、邪魔者でしかないって……。ちくしょうっ! んなこと、わかってんだよ! わざわざ言われなくたって…っ。だけど、俺は……!」
やり切れなさそうに悔しそうに気持ちを吐き出し、涙を浮かべたその琥珀の瞳を、俺は真っ直ぐに見返した。
「おまえは本家の奴らと俺とどっちを信じるんだ?」
シュンは息を飲み、見る間にその顔を紅潮させると震える唇から小さな声をつむぎ出した。
「ごめんなさい」
素直に謝った飼い犬には、ご褒美をやることを忘れてはいけない。
俺は、目から零れそうになっていた涙を親指でぐいっと大きく拭い取ってやり、そのまま頭に手を置いて張りのあるまっすぐな髪をくしゃくしゃに混ぜた。
「やめろよ! 莫迦!」
そう文句を言いながら、駄犬は嬉しそうだ。耳まで真っ赤になっている。見えないふさふさの尻尾が大きく揺れている。
悪いことをしたら、叱る。
体当たりで、しっかり目を見据えて、やってはいけないことをその身に叩き込む。
なぜなら飼い犬の躾は主人の務めだから。
噛まれたら、その理由を探り、ストレスを取り除いてやる。
間違った場所に行こうとするなら、――もう一度、教えなおすまでだ。
地道な作業だが、躾に近道も抜け道も裏技もない。
犬の躾は根気と粘り強さと不屈。……あとほんの少しの愛情があれば成功するもんだ。
「カズサ、大好き!」
「コラ! しがみつくな、重い!」
機嫌の直った駄犬がじゃれついてくるのをかわしながら、俺は痛む腰をガマンして家路を辿った。主人もラクじゃねぇとか思いながら。
END
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