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第4話 ②
ドアが開いて、世那が顔をのぞかせる。
「――行ってくる」
「行ってらっしゃい」
いつもと変わらない、ワントーン低い声。僕だけに向けられる声。それでもその視線に温度があることを、今日の世那は隠していない。
「世那」
「何」
だからドアを閉めようとした世那を、僕は呼び止めた。
だめだよ、ちゃんとフリをしないと。
「本当に嫌だと思ってる?」
「――思ってるよ」
世那は片頬で笑って、ドアをぱたりと閉めた。
足音もなくなって、家から出たであろう頃。僕は息をついて苦笑した。世那のことだから母さんも父さんもいないと分かってやっているのだろうけど、笑うなんて。けれど文句を言えないのは、僕の胸の内も世那と同じだから。
僕たちはあの日、言葉を交わさないままに約束した。互いを守るための大事な約束。
僕としては、いつかくるその日まで一緒にいるための、その先も互いの存在を失わなくて済むための、という意味も持った約束。でも世那にはまた別の意味合いもあるかもしれないと、最近の様子を見ていて少し思う。
それでもいい。それでいい。僕たちは別の人間だから、二人だからこうして出会えた。
だから今日もまた、明日も出会うために、この気持ちは誰にも知られてはいけない。気づかれてはいけない。僕たち自身にさえも。うっかりとこぼれてしまわないように確認する。
ちゃんと嫌いでいる?
あの時の魔法をこの手と一緒に、未来までずっと、持っていくために。
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