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第4話 ①

 僕は目を覚まして、しばらくしてからゆっくり身体を起こす。  手を伸ばしてカーテンを開けて、もうあの日から数日たったのに、光に当てられた手がまだふわふわとしていることに苦笑した。  世那の目が見えなくなれば僕の目を、世那の心臓が悪くなれば僕の心臓を。  この身体は僕が知る最初から世那のもので、だからこそ大事には思っていたけど、他の感情を抱いたことはなかった。けれど、この手をまだ暖かく思うこと、この手がちゃんと魔法を今日まで、きっとこの先まで繋いでいてくれるだろうこと。その感覚が手を、心をふわふわとさせる。  本当は嫌ってほしかったのに、こんなに僕を幸せにしてどうするのか。  さすがだよ、世那。  あの日僕は、部屋に入ってきた世那の目を見て、話さなければいけないと覚悟した。それと同時に、絶好のチャンスだと思った。  僕がいやいやここに縛り付けられているのだと思っている第一声に、世那はやっぱり優しいのだと分かった。だからこそ、決定的に世那に嫌ってもらうチャンスだと思った。ショックを受けた世那に僕は心の中で謝りながら、同時に嫌ってくれることを望んだ。  こんないびつな関係を受け入れて笑っていた僕は、大層おかしくて気持ちの悪い存在。全ての事情を考慮したら、世那はどうしたってこの流れを止めることができない。きっと初めは悩んでしまうから、それを全部僕のせいにしたらいい。  世那よりもずっと前にこれを知って受け入れた、そうすることでこの流れを止められなくした僕を嫌って、そうしてこの受け継がれてきた伝統を世那が手渡された時、抵抗なく受け取れるようになってほしい。  世那が少しでも長く生きて少しでも幸せを感じるためだったら、僕は世那にとって、いとも簡単に切り捨てられる存在になりたかった。  それなのに世那は、僕に温度を教えてくれた。  それで僕たちがずっと一緒にいる、互いを分け合っただったのだと教えてくれた。ただの人間二人なのだと。そういう世界で今、生きているのだと。  コピーとして、そのための名前も冠されて、それでも十分意味があって幸せだと思っていた。僕の名前は天高く広がるものではない。からっぽうつろ、感情の要らないお人形。そのはずだったのに今見てみれば、全く望まれた通りの状態ではない。  そしてその方が――今のこの世界の方が僕にとっては何倍も、数えられないくらいの色にあふれて、幸せなのだと知ってしまった。それはとても嬉しくて、同じくらい苦しい。  聞きなれた足音が聞こえて、僕は顔をあげた。

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