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天は、二物を与える

「これから、どうする?  両親は海外に住んでるから、俺はいま兄貴と二人暮らしなんだけど。  兄貴、今週は出張でいないんだよね。  今後の事も話し合った方がいいかもだし、うちに泊まりに来ない?」 にこにこ笑顔で言われた。 正直コイツの世話になるのは嫌だったが、このままこの馬鹿男を俺の姿のまま野放しにするのは恐ろしい。 ある程度、今後の作戦とか予定みたいなもんも考えておいた方が良いだろう。 「...順応性、クソ(たけ)ぇな。  でも確かに、これ以上面倒な事が起きても困る。  とりあえず今日のところは、そうさせて貰おうかな。」 俺の顔をした、アイツが笑う。 それは自分の顔の筈なのに、かつて見たことがない程それは、嬉しそうで。 ...なんだかとても、不思議な感じがした。 「夕飯は、俺が作るよ。  大悟は、何が食べたい?」 新婚夫婦かよ、と突っ込みを入れたくなるほど、甘ったるい雰囲気で聞く木内。 そしてそれを見て、心底げんなりする俺。 「何でもいい。  ...でも、トマトは嫌いだ。」 俺の言葉に、木内はまた嬉しそうに笑った。 敵意を抱いているのは自分ばかりで、好意全開といった感じのコイツの姿に脱力した。 「俺の事、嫌じゃねぇの?  ...今まで俺、すげぇ感じ悪かったと思うんだけど。」 戸惑いながら、聞いた。 すると彼は一瞬キョトンとした顔をして、それから吐き気がするくらい甘ったるい表情を浮かべ、全く的外れな答えを返した。 「...可愛いなぁ、ホント。」 「...は?何言ってんの、お前。  ナルシストかよ。  ...やっぱ、キモッ!」 もはや脊髄反射かっていう勢いで、罵倒した。 「違うよ。  自分の顔なんか別に、好きじゃない。」 自分の顔が好きじゃない、だと? 謙遜している風でもなく告げられたその言葉に、少し驚いた。 チャラチャラしたヤツだが、見た目に関して言えばこの男、満点と言えよう。 大きな、青みがかった瞳。 日本人以外の遺伝子が入っているせいか、人よりも高い鼻。 形の良い唇、天然のモノだと思われる、緩くウェーブした黄金色の髪。 言うなれば、あれだ。 コイツは昔読んだ絵本に出てきた、王子様を思い出させるような風貌をしてやがる。 ...腹は立つが、男の自分から見ても格好いいと思う。 コイツの事を嫌いな理由なんて、ホントはずっと前から気付いていた。 ...理不尽で子供じみた、嫉妬だ。 天は二物を与えず、なんて言葉。 あんなのは、嘘っぱちだ。 ...与えるところには二物どころか、三物も四物も与える。 言動はアホっぽいのに、頭が良く、見た目も良くて。 おまけに家柄まで良いとか...妬むなと言う方が、無理な話だと思う。 だからずっとコイツの事を意識的に避けてきたというのにこの男は、何故かいつもいつも俺の視界に割り入り、そして心の中にまでも入り込もうとする。 ...やっぱりコイツ、ムカつくんだよ。 そんな風に思っているのを知ってか知らずか、彼は俺の顔を覗きこみ、幸せそうにただ笑った。 「...なんで俺とお前が、入れ替わっちまったんだろうな。」 ポツリと、ひとりごとみたいに呟いた。 すると木内は少しだけ考えるような素振りを見せ、それから視線をさまよわせ...俺から思いっきり顔を背けた。 「...ちょっと、待ちやがれ。  心当たり、あんのかよ?」 胸ぐらを掴み、グラングランと彼の体を揺さぶる。 すると彼は、楽しそうににへらと笑って答えた。 「んー...、たぶん?  でもそれ聞いたら大悟、確実にぶちギレるから言わなーい♪」 「...言わなくても、キレるに決まってんだろうが、クソがっ!」 俺の怒声に木内は、なおもヘラヘラと笑った。

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