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カルボナーラ
「おーい大悟、機嫌直してよ。
パスタ、出来たよー?」
ヤツの家の、リビングルーム。
嫌味なくらい広いその空間に置かれた、馬鹿みたいにでっかいソファーにごろりと寝転がり、ふて寝している俺の背中をツンツンと突つく木内。
「ぁんっ...!お前...それやめろっ!」
くすぐったさから、思わず変な声が出た。
突然の刺激に驚き、振り返るとそこには、何故か真っ赤な顔で口元を押さえ、ふるふると震える木内in俺の姿。
ん...?なんだ、この反応は。
「おい...木内?」
心此処にあらずって感じなコイツの姿になんだか不安になり、声を掛けた。
すると木内は真っ赤な顔をプイとそらし、ぶつくさと呟くみたいに言った。
「何でもない。
...けどこれ、めっちゃラッキーって思ってたけど、理性との闘いだな。」
は?何言ってんだ、コイツ。
意味が分からない。
その疑問がたぶん、顔に出ていたんだろうな。
木内はポリポリと頭を掻き、ちょっと苦笑して言った。
「...大悟は、分かんなくていいよ。」
「はぁっ!?んだと、ゴルァッ!
馬鹿にしてんのかよ...やんならやってやるぞ、クソがっ!」
俺の雄叫びが、室内に響く。
でも木内はやれやれと言った感じで今度は困り顔で笑い、そのまま俺を置いてテーブルに向かった。
何だよ、その反応。
今の発言の、何が気に食わないってんだよ、畜生め。
でも、空腹には勝てず。
...俺は渋々、ヤツのあとに続いた。
テーブルの上に並んでいるのは、店で普通に出されるような、綺麗な薄黄色の、クリーミーでダマのない旨そうなカルボナーラ。
更にはキューブ状に刻んだ野菜とベーコンのスープ、俺なんかは見たこともない葉っぱみたいなのを使った洒落たサラダなんてモノまで、ちゃんと添えられている。
あの短時間で、しかも有り合わせのもんだけでこれ、全部作ったのかよ。
こんな事まで得意とか...コイツ、マジで完璧超人じゃねぇか。
自然と眉間に、シワが寄る。
それを見て木内は、ちょっと慌てた感じで聞いた。
「えっ!?
なんか苦手なモノ、あったっ!?
トマトは、使わなかったんだけど...。」
俺とは対照的に下がる、彼の眉。
でもこの感情は流石に八つ当たり過ぎんだろと思い、仏頂面のまま答えた。
「ううん、ねぇよ。
...スゲェ旨そうで、ムカついただけ。」
なんつー理不尽な答えだと、自分でも思う。
でもそれを聞いた木内は、ホッとしたように笑った。
なんなんだよ、ホントコイツ。
穏和だからキレないにしても、文句ぐらい言えよ。
...居心地わりぃんだよ、アホ木内。
それでも空腹には勝てず、しかめっ面のままフォークに手を伸ばし、くるくるとパスタを巻き取り、そのまま口に運んだ。
それを嬉しそうにニコニコ笑いながら、頬杖をついてじっと見つめる木内。
食いづらい、畜生。
...でも、クソうめぇ。
ガツガツと頬張る俺の方に、テーブル越しに手を伸ばす木内。
なんだ、一体?
しかしその疑問は、すぐに解決した。
俺のほっぺたに飛んだ滑らかなクリームをコイツは指先で拭い...あろうことか、ペロリと真っ赤な舌先でそれを舐めた。
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