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リバース

ガッ、と額を手のひらで押さえ、無理矢理唇を離させた。 「お前...恐ろしいヤツだな。  アメリカ帰りだからなの?  それとも単に、木内だけ距離感がおかしいの?  ...何でナチュラルに、俺にキスしてんだよ。」 恥ずかしさから、睨み付けて言った。 そう。 ...嫌悪感からではなく、ただ恥ずかしさに耐えられなかったから。 「...ごめん。  だって大悟が、あまりにも可愛くて。」 眉尻を下げ、飼い主に叱られたワンコのようにショボくれる木内。 ...可愛いのは、お前の方だろ。 てか、キスされても嫌じゃないとか。 ...もうこれ、認めないと仕方ないだろ。 「俺もお前の事、好きだよ。  ...たぶん。」 最後の言葉は言い訳のように、付け足した。 驚いた感じで見開かれる、瞳。 再び木内は俺に抱き付き、床に押し倒すと、スリスリと頬を頬に擦り寄せた。 「大悟、好き。  大好きっ、大好き大悟っ!」 何度もそんな事を口走りながら、夢中で巻き付いてくるコイツ。 きっと木内がリアルワンコであったならば、尻尾はブンブンに振られている事だろう。 でもって犬種は間違いなく、大きくて素直で飼い主大好きな、毛並みのよい金色のゴールデンレトリバー。 「...落ち着け、木内。  ったく、やっぱお前犬だろ。」 呆れながらも、不快ではなかった。 むしろこんなに俺の事が好きだと全身で表現してくれるこのバカの事が、愛しいと思った。 本物の犬にするみたいに、頭をワシワシと撫でる。 すると木内は本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。 でも手に触れるその髪の感触は、やはり残念な事に、固くてゴワゴワで。 これが本来の、木内の頭であったならば。 ...金色で、柔らかくて、フワフワなんだよなと思うと、何となく少しだけ惜しいような気がした。 再び触れる、唇。 でも今度は軽く触れ合うだけでなく、木内は舌で唇を優しく開かせて来て...絡み合う、舌と舌。 しかもさっきとは逆に、気が付くと俺の方が優しく頭を撫でられていた。 どうしよう、嫌じゃねぇ。 ...って言うか、もっとして欲しい。 ずっとずっと、大っ嫌いで仕方なかったこの男。 でも認めてしまえば吃驚するくらいしっくり来る、『コイツが好き』だという感情。 ...『好き』と『嫌い』は感情として近く、紙一重だと言うのは本当だったらしい。 俺は抵抗する事無く、大人しくされるがまま木内の腕の中、その口付けに酔った。 そしてその間ずっと目を閉じてたから、まるで気付いていなかった。 ...いつの間にか俺と木内の体が再び入れ替わり、それぞれ元の持ち主の元へ戻っていた事に。

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