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サイレン
木内が用意してくれた、ホットミルクを飲みながら。
机の上に広げられているのは、コイツの小さい頃の写真が貼られた、アルバム。
そこに写る幼い木内は今と変わらぬ金髪碧眼なのだけれど、幼稚園のお遊戯会で芝居をさせられているらしきコイツは、王子様の仮装みたいな格好をしている。
大きな王冠のようなものを被せられ、真っ赤なマントを肩に掛けられてる木内は、同じ舞台上でコスプレさせられている、いかにも『ざ・じゃぱにーず』なその他の子供達とは、完全に別物。
「かっわいいなー、木内くーんっ!」
ニヤニヤと笑いながらちょっとからかって言ってやったら、コイツはフキゲンそうに唇を尖らせ、聞いた。
「大悟...それ、絶対馬鹿にしてるでしょ?」
...ぁ、拗ねた。
でもそういうところ、現在の木内もちょっと可愛いな、だなんて思ってる自分に気付き、愕然とした。
しかしそんな事は口には出来ないから、思い付くまま、誤魔化すみたいにつらつらと言葉を発し続けた。
「まぁでも、可愛いとは思うぞ?
本物の、王子様みたいじゃん。
俺なんか幼稚園のお遊戯会の人魚姫の話で与えられた役、ワカメだかんな。」
そう...オリジナルの物語では、存在すらしない役、ワカメ。
大慌てで先生が、全員に役を与えるためだけに急ごしらえで考えたであろうキャラクターである事は、想像に難くない。
なんて、忌々しい記憶だ。
その他大勢にも、程がある。
「そうなんだ?
その写真も今度、見てみたいな。」
クスクスと、笑う木内。
「やなこった。
なんでそんな黒歴史、お前に見せなきゃなんないんだよ。」
すると木内は、ちょっと考えて。
...そして急に、真剣な顔をして答えた。
「俺が見たいから、っていう理由じゃ駄目?
大悟の事なら俺、全部知りたいもん。」
不意に絡められた、指先。
たったそれだけの事で、全身が一瞬の内にカッと熱を持つ。
「そういうのは、女子に言えよ。
...バッカじゃねぇの?」
顔を背けて、そう言ったのに。
そのまま強く手を握られ、反対の手の平を頬に添えられて...真っ直ぐに瞳を見つめ、ヤツは微笑んだ。
「男とか、女とか関係ない。
...俺は、大悟の事が知りたい。」
近付く、距離。
もしかして...また、変な事 される?
思わず、反射的に目を閉じた。
でもヤツの唇は、俺の唇ではなく額に優しく触れた。
「...大悟、可愛すぎ。
好きだよ、大悟。
初めて会った時から、ずっと好き。」
どストレートな、愛の告白。
木内の事が、苦手な理由。
ひとつは、理不尽な嫉妬。
...もうひとつは、無条件に注がれる、愛情溢れる視線だった。
ずっと俺がコイツから逃げていたのは、怖かったからだ。
...木内に囚われ、逃れられなくなる事が。
鈍感でひねくれものの俺ですらも、本当はずっと前から気付いていた。
コイツは俺の事、ただのクラスメイトとしてではなく、恋愛対象として本気で好きなんだって。
でも俺はコイツの事、そういう風な目では見ていない...筈だった。
なのに今俺は、この男からの告白を、不快どころかちょっと嬉しいって思ってしまっている。
心の中、静かに鳴り続けていた警報 。
でも今それは、大音量で鳴り響いている。
...あぁもう、ホント最悪だっ!!
「何だよ、それ...。
やっぱりお前、バッカじゃねぇの?」
悪態を、吐きながら。
...俺も彼の背中に、腕を回した。
見た目は、俺な筈なのに。
...視界の端で俺じゃなく、幸せそうに金髪碧眼の王子が笑った気がした。
「馬鹿でも、いいよ。」
大悟...大好き。」
今度は唇に、彼の唇が触れた。
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