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第3話〈完〉
膝を突いて馬乗りになったウォルターが、指先でキュッと胸の突起を抓った。
「ぁんっ」
今まではそんなことされたって痛みしかなかったのに、今は痛みの向こうに少しだけ快感が得られる。その僅かな違いにも気付いたんだろう、屈み込んで来てもう一方を歯を立てて噛まれ、仰け反ったところを音を立てて吸われ悶えた。
「ふうん……悔しいけど、ようやく開発の成果が現れたんだと思えば許せるか」
しばらくいたぶった後そう呟いたウォルターは、そのままあちこち入念にチェックするように舌と指を這わせ続け、俺は生す術もなく悶え続けた。腰の奥の方からずくんずくんと疼くように熱が生まれてくる。中心には触れられないままひたすらに上半身を愛撫され、もう何も思考できないほどに脳内は蕩けきっている。それなのに、いつものように取り出されたオイルを、胸から腹に掛けてぽたぽたと垂らされた。
一瞬息を呑み、そのまま手の平で塗り込めるように広げられてゆるゆると突起を刺激されては絶え間なく喘ぎ声を漏らし続ける。
「下からは勿論だけどさ……こうやってると皮膚からも沁み込むんだぜ? 折角だから今までないくらい気持ち良くさせてやるよ」
頭上から腰に響くエロボイスで囁かれ、ますますもどかしげに腰が揺れてしまった。シーツを握り締めて耐えていた両手が無意識に股間に伸びると、サッと阻まれ顔の横に持ち上げられてしまう。
「自分でイクなんて許さない」
ちゅく、と唇を捉えられ中を蹂躙される。何かごそごそ手が動いているなと思いふと違和感のある左手を見ると、ギュッと革のベルトで手首を締められているところだった。
ジタバタもがいても、いつもの半分も力が出ねえ。右手首もあっさりともう一本のベルトを締められ、そのままベッドの足に反対側を繋がれて俺は両手の自由を失ってしまった。
って──こんなもんいつの間に……。
恐らくオイル出した時にベッド脇にでも置いてたんだろうけど、半分以上意識が飛んでいる俺は気付きもしなかった。
「こんの、変態……っ!」
罵る声にも力が入らず、睨んだつもりが気だるげに流し目したくらいにしかならない。
「何とでも。それ以上の変態三人組にヤられるより断然ましでしょ」
まだ怒りは解けていないらしいが、にやりと笑みを作った表情はいつものこいつっぽかった。そのことに少し安堵してしまう。それなのにやつはとんでもないこと言いやがった。
「さてと~。今晩は飲みはぐれたから、ちょっと酒の準備でもしてくるわ」
え? ちょっ!? まさかこの状態でお預けとか……。
信じらんねぇーーーーっ!!
言葉通りにすんなりベッドから下りて部屋を出て行くウォルターの背中を見送りながら、俺はわなわなと震えていた。
素っ裸で、これでもかってくらいオイルを塗り広げられた上半身、あろうことか両手は束縛されて寝返りすら打てねえときたもんだ。暖房が効いているから裸なのはまあいいとしても……口から摂取してしまった何かのクスリに加え、確かにオイルの成分も効き始めてきていた。モノはもう随分前から臨戦態勢というか、はちきれそうになりながらも外的刺激がなくて透明な雫だけを零し続けている。発散先のない熱が体の中にわだかまり、どうしようもなく突き上げてくる衝動。荒い息をつきながら、じれったさに身をくねらせ、それが更に刺激となる悪循環に陥っていた──。
唇に柔らかいものが当たり、差し込まれた温かいものを伝って冷たい水が入って来た。夢中になって嚥下すると、一旦唇が離れて行きまた同じ行為が繰り返される。
周りが認識できないくらい意識が混濁していたらしく、喉以外にも体中が水分を欲していた。
少しだけ浮上したのでベッドサイドに視線を遣ると、どうやら本当に一人で晩酌しながら俺を眺めていたようで、テーブルの上に空になったブランデーのボトルとグラスがあった。
これっぽっちも気付いてなかった自分も大概だけどさ……これって酷くねえ? すげー悪趣味な気がするんですけど。
状況を認識して顔のすぐ横にある手から上へと視線をずらせ、同じようにこっちを見ていたウォルターと視線が絡む。
「も……無理」
呟いた途端にまた射精感が突き上げてきて、眦からも鈴口からも雫が伝い落ちた。
「イきてぇよ、ウォルター……」
ベッドの脇に膝立ちになっていたウォルターは、しばらく無言で見下ろした後──その間にもその視線に感じて喘いでしまう俺に酷薄な笑みを浮かべた。
「切羽詰まったら、あいつらにも言うんだろうな」
「っ! 言わねえって何度言えば、ぁっ」
竿の根元をぐっと押さえられ、目の前が白くちかちかと光った。
「いや、だ……」
「本当に嫌だと思ってる?」
そのままもう一方の手で竿を弾かれて、衝撃に腰が跳ねる。
感じすぎて、もう痛みすら性感に思えて悔しい。
「ウォルター……俺がイクのは、男では……お前が相手の時だけ、だって」
普段なら恥ずかしくてとても口には出来ないような言葉も、たどたどしくはあるが出てきてしまう。こんなの、お前の前でだけだって……察しろよ。頼むから信じてくれよ。
一体どんな言葉なら伝わるんだ?
元々俺たちはゲイじゃない。それでも合意の上でこんな行為が出来るってだけで、特別なんだって解るだろ?
それなのにこれ以上、何が欲しいって言うんだよ……。
もしもあいつらに強姦されてたとしたって、今以上に感じているとは到底思えねえ。突っ込まれても、それであいつらが満足したとしたって、俺がイける筈ないじゃんか。
「──ウォルター……俺、言ったよな? この体好きにしていいのは、お前だけだって……。そんなの、他の誰かに言う筈ねえだろ、この俺が」
苦しいのは確かだけど、涙が零れるのはそれだけのせいじゃない。
暗く翳りを漂わせていたエメラルドの瞳が揺れていた。
「ウォルター……。俺には……お前だけだ」
旨い言葉が見つからなくて、もう俺は口を噤んだ。喉の奥から込み上げて来るものと戦いながら、必死で見つめ続ける。体のことだけじゃなくて、ここで踏ん張らないとこれからの関係が変わってしまいそうな気がしていた。
恋愛感情とは言えない。それでも、他の男の連れとは明らかに違う……それを解って欲しい。
揺れる瞳を隠すように、ふっと苦笑しながら目を閉じて、半ばまでボタンを外していた自分のシャツをウォルターは脱ぎ捨てた。
「そんなに熱烈な告白されたら、絆されるしかないじゃないか……」
くすりと笑って目を開けたときには、もういつものこいつに戻っているように見えて、情けなくも安堵してしまう。安心した途端に、不安と恐怖で薄まっていた欲望が戻ってくる。ウォルターが俺の足首を持ち自分の肩に載せるようにすると、後孔に指があてがわれぴくりと体が震えた。
先走ったものを絡めてから、ゆっくりと進入してくるものを誘うように、中が蠕動する。
もっと……もっと刺激をくれ。
好い箇所を突かれ、擦られると、腰が自然と揺らめいた。
「……いいんだよな」
声に応じるように、甘い喘ぎが漏れる。
「いい、もっと……!」
性急に快楽を求めるそこに指が増やされていく。
「うぁ……っ、も、イクっ」
我慢に我慢を重ね焦らされて放置されていた箇所から、白濁が弾けた。ドクドクと脈打つものに気付いていないかのように指は動きを止めない。
「ちょ、や……ぁっ」
過ぎた快感は苦痛を伴う。イキっぱなし状態のまま、それでも侵入者を逃すまいとするかのように勝手に中を締め付けている体がもうどうにも言い訳できねえって言うか。
「んーーーっ!」
仰け反り、なんとか小休止を挟みたいと体で訴えたんだが、わかってないのかわざとなのか、指を引き抜きながらあいつの太いのが入って来た。
「──くっ、きつ……」
いつの間に下の服を脱いだのか、挿入しきったところで一瞬動きを止めて柳眉が寄せられた。俺の方はといえば、もう言葉もなく熱い息と声を吐き続けて、快楽だけを得ようとしていた。
ようやくしっくりいったのか、腰が動き始める。
「それじゃあ、お望み通りいくらでもイカせてやるよ。──今度は好過ぎて意識飛ばさせて遣るから覚悟しろ」
何だか恐いこと言ってるな、と思いながらも、いつものあいつに戻ったのが嬉しくて……俺は笑みを浮かべた。
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