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第1話 傍にいた

「………お……俺……お前の事が好きだ……」 決死の告白だった だが…… 突然過ぎて…… 言葉が出なかった 返事をしないでいると…… 野坂は僕に背を向けて… 走って行った 高校の卒業式の後の事だった 野坂知輝とは高校時代の友人だった 物静かで大人しい野坂には友達もいなかった 本を読むのが好きなのか 何時も1人で本を読んでいた そんな野坂に声を掛けたのは 学級委員でもあり生徒会長をしている脇坂篤史…… 僕からだった 「野坂」 声を掛けると必ず野坂は面倒くさそうに脇坂を見た 「俺の時間を壊しに来たか……みたいな目で見ないの!」 脇坂がそう言い笑うと、野坂は何時もバツの悪い顔をした 「今日は何の本を読んでるの?」 脇坂は躊躇する野坂を全く気にせず野坂の本のタイトルを見た 「あ、この本僕も読んだよ 中盤の下りの部分の登場人物が可愛いんだよね」 脇坂が言うと野坂は不思議な顔をした 「………同じ事を考えてる人がいるなんて……」 「だって意地はって可愛いよね?」 「………殆どの人の意見は……憎たらしいだよ?」 「僕は可愛いと想いましたよ?」 野坂は真っ赤な顔をして……脇坂を見た こんな顔をする君も可愛いですよ 脇坂は心の中で想う 高校の3年間 脇坂は野坂と過ごした 野坂との時間が、物凄く楽で素の自分でいられたから…… なくしたくない…… と思った 傍にいるのが当たり前の様に過ごした クラスメートも野坂の事は脇坂が出れば大丈夫と想っていた だから野坂が困っている場面に出会せば必ず 「おーい!脇坂! 野坂が3階で困ってたぞ」 とピンチを伝えた 脇坂は助けに行くのが当たり前になっていた 何時も何時も一緒にいた 野坂は脇坂だけに将来の夢を話してくれた 「脇坂、俺……小説家になりたいんだ!」 野坂はキラキラ瞳を輝かせて何時も言ってた そんな君を…… 僕は堪らなく愛しく感じていたんだよ? なのに…… あの日…… 卒業式の後 君は僕に急に告白するから…… 僕は頭が真っ白になっちゃったんだ   だから言葉が出なかった そしたら君は走って逃げて行った 後から訂正しようと思ったら…… 君は何処かへ消えてしまった あの日から… 君の姿を求めて…… 君に会いたくて…… 仕方なくなった 忘れられない想いを抱えた 野坂‥‥‥君は何処にいるんですか? 高校の卒業と共に姿を消した野坂を想う 東大を目指していたから、脇坂は東大に進んだのに‥‥ 東大に野坂はいなかった 何処へ逝けば逢えますか? 脇坂の親はかなり資産家で会社を経営していた 脇坂の親は我が子全員に帝王学を学ばせ教育した 長男が跡を継ぐのでなく、素質のある子に会社を託す 脇坂篤史はかなり素質を持っていた だが‥‥脇坂は会社を継ぐ事を選択肢の中に入れてなかった 野坂は小説家になりたいと、ずっと謂っていた ならば野坂に出逢えるのは編集者の方が可能性は高い‥‥‥と踏んで出版社大手を狙って就職する道を選んだ 何故こんなに‥後を追うのかは解らない 解らないけど‥‥ 脇坂は‥‥ずっと傍にいてくれた存在を懐かしく想い 傍に逝きたいと願った

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