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第2話 偶然

「あっ……あぁん……もっと……」 野坂に似てると想ったのにな…… 抱いてる途中で違いを発見した…… 本人じゃないから当たり前なんだけどね それでも性欲は吐き出す為にある 「良いかい?」 「んっ……そこ……届く人って滅多とないの……あぁん……イイッ…」 激しくグラインドして欲望を吐き出す 出した後は…… 冷めて……正気に戻った 「……凄く良かった……」 名も知らぬ男は…… 脇坂にしな垂れかかって甘えた 脇坂はそれが物凄く……うざく感じて身を離した 身勝手と言われても……仕方ない 脇坂はニコッと微笑み 「僕も良かったですよ」 「ならまた逢って…」 男には次も抱いてくれるだろうと自信があった だが脇坂は 「一度限りと決めたでしょう?」と冷たく吐き捨てた 「………あ……」 「約束は守らないと……ね」 「……あんた……最低って言われない?」 最低だと謂われない日はない それでも性欲はわくし、吐き出さねばならない日はあった 脇坂は皮肉に嗤うと 「その最低が良いと股を開く人が絶えません」 と暗にモテる事を匂わせた 脇坂は女優している混血の母と、会社経営してる父との間に産まれただけあってクォーターでハリウッド俳優ばりにイケメンだった 脇坂は自分の容姿を熟知して、より効果的に自分を見せる術を知っている男だった 「そして一度と約束したのに、次も当たり前に約束して来る子達も耐えませんからね」 クスっと笑うと男は脱ぎ散らかした服を着た 「最低!」 男は毒づき部屋を出て行った 優しげな風貌に騙される人間が多かった 優しげな風貌と、整った イケメン顔に……騙される人間は後を絶たなかった ニコッと笑えば大概は落ちる 自分を熟知した使い道を知っている人間だった 女も男も好きなだけ釣れる 節操はなかった 友人の飛鳥井蒼太は 「………お前……何時か刺されるぞ……」 と何時も口を酸っぱくして言う 「……そうか?」 「そーだよ!」 「なぁ蒼太、お前さ野坂覚えてる?」 「………話した事は一度もないが、お前と何時も一緒にいたから知っている」 「野坂……今どうしてるか? 解るか?」 「……それは解らないだろうな…… 野坂は実家も出たらしいし、同窓会に出ないからな知る者なんていないよ」 「………そうなんだよな……」 「……それよりお前さぁ…… 何時か刺されるぞ……」 「………刺されても良いぜ! どうせ一度殺されかけたしな‥‥」 それも人生だしな 脇坂は笑った 友は口をつぐん 何を謂っても脇坂の心の傷は癒えないのを知っているから‥‥ だから友は話題を変える 「しかし……お前が編集者とはな……」 「敏腕編集者だぜ!凄いだろ?」 「………敏腕編集者……作家を食ってないでしょうね?」 「あ!大丈夫! そんなヘマはしない! 作家に手を出したら後々大変だからね」 「………そろそろ再婚したら?」 「……もう結婚はこりごり……」 脇坂は大学時代に結婚した その頃は今のように貞操観念のない体たらくではなかった 脇坂は桜林学園の初等科からの腐れ縁、飛鳥井蒼太に声を掛けた 「蒼太、お前は今恋人と同棲中なんだろ? 幸せで良いよな」 「お前……この先本当に誰も要らないのか?」 「………僕の離婚を知ってる君が……それを言いますか?」 脇坂はクォーターだけあってモテる だが結婚中は相手だけ愛して来たつもりだった だが妻は…… 常に浮気を疑った つけ回して、監視した 3年の結婚生活は…… 妻に刺されて殺され掛かって幕を閉じた 脇坂の背中には今も斬りつけられ刺された跡があった 脇坂は何時も想う アイツが隣にいてくれたら‥‥‥ そればかり想う だからついつい言葉になって放ってしまう 「………野坂に逢えたなら……」 「………え?……」 溢した言葉に脇坂は苦笑して取り繕った 「何でもない!  それより同窓会の幹事お前だろ?」 「手伝えよお前も!」 「無理!僕はしがない編集者ですので、作家様の為にしか時間は裂けないのです!」 「チェッ!お前は親父さんの会社を継ぐんだと想っていたけど?」 「あの会社には僕の欲しいモノは手に入らない‥‥」 お前の欲しいモノは‥‥‥一体何なんだよ? 蒼太は問い掛けられなかった 脇坂は友を心配させない様に 「笙も幹事なら心配ないだろ? しかし……笙も新婚で幸せそうだし……」と言葉にした 「だからお前も相手見つけろよ!」 「………尽くすんだけどな……」 「お前、尽くし過ぎなんだよ! ………ベタベタに甘やかし過ぎるからな‥‥」 愛される方は結構大変かも知れない ベタベタに甘やかし他の事を考えさせれなくする その愛に浸かれば人は狂うしかない‥‥ もっと‥‥もっと愛を望んで疑心暗鬼に囚われて ありもしない浮気を疑うか、逃げ出すか 脇坂の結婚は前者で、妻はありもしない浮気を疑いストーカーと化して夫をつけ回し‥‥ 挙げ句の果てに無理心中を選び夫を切り着けた 壮絶な結婚の終わりを脇坂は迎えた それでも‥‥友は願わずにはいられなかった どうか‥‥幸せになってくれ!と願わずにはいられなかった そんな愛し方しか出来ない脇坂を心配して 悪友は……友の幸せを願った 脇坂はズブズブに甘く甘やかす程に尽くす相手が欲しがった 埋められない何かを埋めるかの様に‥‥相手を甘やかしてズブズブの愛で籠絡した ……だが、殆どの人間が、それをやられると……生きて行けない……と逃げて行くのだ 大学を卒業して、編集者になって7年 大学時代から同じ編集部でアルバイトをしていた そして入社試験で合格を貰い勤め始めた バイトをしていたからと言って入社出来る程に甘い会社ではなかった 運良く東都日報の系列の東栄社に入社を決め それ以来編集の仕事に携わって来た 入社当時は少女漫画の編集部にいた 少女漫画の作家様に惚れられ……押し掛けられ…… 結婚してくれなきゃ締め切りを破るからね!と脅され…… 心身共にボロボロになった 2年前から小説の部門に変わった 編集部では中堅所となった今、やっと編集者として手腕を発揮できる様になっていた 脇坂は結構気難しいと有名な作家の担当編集者として手腕を奮っていた そんなある日、脇坂に白羽の矢を立てる作家が姿を現した 「脇坂君、君に受け持って欲しいとお願いした作家様、ちょうど編集部に来てるんだ 顔見せしてくれないか?」 編集長の黒岩高雄が脇坂を呼びに来た 「編集長、今ですか?」 「あぁ!待たせてあるんだ!」 黒岩と共に会議室に向かう 黒岩は会議室に向かうまでに作家の概要を脇坂に伝えた 「気難しい作家様ではないが、神経は細い 細かいサポートをしてくれる人間と言ったら、君しか想い浮かばなかったんだ!」 作家様の相手なら慣れてる 我が儘で気分屋で…… 脇坂は溜息を少しつくと、笑顔を作った 会議室のドアを開け黒岩は脇坂と共に入った   「野坂さん、ご紹介します! 今度から貴方の編集者になる脇坂篤史です! 脇坂、こちらが作家の和坂篤美さんです!」 脇坂の目の前に…… 高校時代……共にいた男が立っていた ずっと逢いたかった男が‥‥そこにいた 脇坂は自分を建て直そうと深呼吸をした 野坂は脇坂を見るなり嫌な顔をした 「………彼が編集者ですか?」 野坂が問うと黒岩は心配そうな顔をして 「嫌ですか?」と問い掛けた 野坂は「嫌です!」キッパリ答えた 黒岩は「え?嫌なんですか?何故?‥‥」困った顔で問い掛けた 野坂は何故に嫌なのかと問い掛けられても‥‥‥ 困って黙り込んだ 黒岩は「先生、脇坂とは初めて逢うんですよね?」と確認した 野坂は困って「………はい……」と答えた 高校次代最期の日にフラれました‥‥‥なんて謂えないから‥‥‥ 黒岩は野坂に「先生‥‥お話を聞いてください」と頼んだ 野坂も一方的過ぎたと反省した まさか‥‥‥ずっとずーっと好きだった男があの頃よりも格好良くなって目の前に現れるなんて想っていなかったから焦ったのだ 「野坂先生、脇坂の見た目だけで判断するのは‥‥止めて戴けませんか? この男はどの編集者よりも人を見てきめ細かいサポートが出来る男なのです」 黒岩の説明に野坂は知ってるよ‥‥と想った ずっとずーっと見て来たから‥‥そんな事誰よりも知っている‥‥ 「脇坂程にきめ細かいサポートの出来る人間は編集部にはおりません 先生の今後を期待して脇坂をサポートに付けて伸ばして行くつもりなのです 脇坂のサポートが欲しいと言う作家は沢山います 直木賞を4人輩出した編集者として脇坂の実力は右に出る者はおりません! 先生の将来性を買っての投資です」 「………」 そこまで言われればもう何も言えなかった 脇坂は野坂に 「………もう決定事項なので…… 担当して貰ってどうしても……と言う事なら、編集長を説得してみます それまでは僕がサポート致します 先生の為に細かいフォローして行くつもりです」 脇坂に謂われれば‥‥もう断る材料はなくなった 野坂は諦めた様に 「………それなら……」と答えた 野坂は何も謂わず立っていた 脇坂は野坂に手を差し出した 「脇坂篤史です 宜しくお願いします」 ニコッと爽やかに言われれば…… 断る事は出来なかった 「野坂知輝です……」 脇坂は野坂の手を取り硬い握手をした その日から脇坂が野坂知輝こと、和坂篤美の編集者となった

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