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第3話 出逢い‥
脇坂は野坂の編集者に収まった
脇坂はかなり遣り手の編集者と謂う事もあって、仕事はかなりやり易かった
野坂の望む資料を揃え
野坂の望む答えを導き出す
時には厳しく
時には慰労だと甘やかし
編集者としての手腕を発揮していた
脇坂は野坂は‥‥恋人など作らず一人でいると想った
だが野坂には恋人がいた
野坂には同性の恋人がいた
まるで脇坂が高校時代付き合っていた様な‥‥
華奢で可愛く、仕事中でも構わず抱き着いて来る様な……独占用の強いタイプの恋人が野坂にはいた…
脇坂は驚いた
野坂は脇坂が好きだと謂った
だから脇坂の様な恋人がいるならまだしも‥‥
脇坂の趣味の様な可愛い男の子が恋人だと謂うから驚かずにはいられなかった
野坂の恋人は気紛れで我が儘なヤツだった
恋人は総てに於いて優先されるのが当然だと想っておるのか‥‥仕事の邪魔も平気でしていた
「ねぇ!まだ仕事終わらないの!」
野坂の恋人は所構わず野坂を独占したった
まるで脇坂が邪魔だと主張するかの様に‥‥
PCを叩いていても
打ち合わせ中でも膝の上に乗って……仕事の邪魔をする
脇坂は野坂の恋人を一切視野には収めずに仕事をした
「先生、次の作品は、こうした方が良いのではないかと想います」
「……そうなんだけどね
それだと軽薄な感じにならないかな?」
「でしたら、その分、ここの部分をこうしてみたら如何ですか?」
脇坂と野坂が仕事の話をしててもお構い無しで
「ねぇ、今日は打ち合わせは入ってない筈だよね?
何で仕事なんて入れてるんだよ?」
と、恋人は不平不満を言う
脇坂は流石とこれ以上は集中力も欠如すると想って野坂に切り出した
「………先生、ご都合が悪かったのですか?
でしたら申して下い……」
野坂は「これだけ書き上げちゃいたかったんだ」と言い、恋人に
「少し待ってて……」と訴えた
「少しって何時までだよ!」
野坂は困った顔をしていた
「先生、打ち合わせになりませんね?
出直して来た方が良いなら仰って下さい」
脇坂は編集者とし仕事を全うする事しか考えてはいなかった
その間も恋人は脇坂の存在が不安なのか野坂の気を引こうと躍起になっていた
野坂は恋人に「……ゴメンね……」と謝った
だが野坂が謝れば謝る程に……野坂の恋人は野坂を独占したがった
仕事にならないと判断すると脇坂は
「締め切り、伸ばしましようか?」と問い掛けた
野坂は必死に
「……大丈夫だから……」と作品を書き上げると言葉にした
「これは資料です
この資料はやっとお願いして借りた資料ですので大切になさって下さい」
「解りました……」
「そして、次は……」
仕事の打ち合わせする
野坂の横で恋人は凄い形相で脇坂を睨み付けていた
脇坂は馬鹿にして
「何ですか?」と野坂の恋人に問い掛けた
「綺麗なツラしてるね!
さぞかしモテるんでしょうね!」
「この顔で仕事を取った事は一度もありませんよ?」
「担当の作家と寝てるんだろ?」
言いがかりに流石と脇坂はぶち切れた
「先生、今日の打ち合わせは止めにしまよう!
今後、この様な事が続けば、貴方は作家として致命的になりますよ?
他の出版社の方にも文句を言ってるそうですね?
それが続けば……貴方は書く場所をなくしますよ?
それだけはお忘れなく!」
脇坂は立ち上がると資料を纏めだした
そして何も言わずに部屋を後にした
静まり返った部屋には野坂と恋人だけとなった
「…仕事……だって言ったよな?」
「………担当者……あんな役者みたいなイケメンだなんて知らなかったもん」
「……だったら邪魔して良いのか?」
「僕は恋人なんだよ?
恋人の僕より編集者が大切なの?
何時も何時も約束破るよね?
デートも何度約束破ったか知ってる?
あの担当者になって更に忙しくなったよね?」
高校時代から読む本の好みが株っていただけあって
話の持って行き方は上手い
自分の書きたい世界を示してくれるから余計夢中になって書いてしまっていた
恋人との約束……頭の隅ではあったが……
結果破ってしまっていた
「あの担当者になって僕といる時間がなくなったのは確かだよね?」
「直木賞作家を4人輩出してる担当者だと言ってた
俺だって書く以上は手応えも欲しい……」
「………そんな事……一回も言わなかったよね?」
「言わなかったけど想いはあった!」
「………僕よりもそれは大切なの?
僕はドタキャンされても貴方の為に食事や掃除のサポートをして来たよ?
なのに……あの担当者……いとも簡単に……僕の仕事を取りやがった……」
家事全般においても脇坂は優秀だった
「そのうち下のサポートもされたりしてね」
恋人は皮肉に言った
野坂は「いい加減にしてくれ!」と叫んでいた
「あの編集者……少女漫画の担当してた頃……刺されたって噂だよ?
背中に刃物傷があるって聞いたもん」
「………だから俺も何かあるって想ったのか?
脇坂は男なんて範疇外だろ?
なのに……そう思ったのか?」
「………脇坂さんがじゃなく
貴方が……犯れるでしょ?」
バカバカしい……言いぐさに……
ご機嫌取りのエッチも……面倒になった
「僕を愛してるって言ったのに……僕を蔑ろにしてない?」
恋人は訴える
噛み合わなくなった現実が‥‥二人を冷めた感情にする
「俺は書いて飯を食ってるんだ!
書けなきゃ今の生活も維持出来ねぇし、信用をなくせば仕事は来なくなる」
野坂の言葉に恋人は
「………僕……疲れた
貴方に焼きもち一つ妬かれない……
本当に僕を愛してるのか……解らないよ…」と呟いた
野坂は「………別れるのか?」と問い掛けた
「僕は僕だけ見て大切にしてくれる恋人しか要らない……
大学の同級生が大切にするって言ってくれてる
僕は恋人がいるからって断ってたけど……
大切にしてくれるなら…貴方とは別れる……
ごめん……これ以上は貴方とは無理……」
恋人は‥‥‥野坂との関係にピリオドを打った
恋人は荷物を纏めて部屋を出て行った
呆気ない終わりだった
可愛いと思った
高校時代、脇坂が愛でていた恋人達に何処か似てると想った
抱いて……自分のモノにしたいと思った
仏頂面で、華奢でない野坂を愛してくれた存在だった
「……バカだな俺……
自ら恋人をなくしてやんの……」
野坂は自嘲気味に笑いを漏らした
『脇坂……好きだ……』
そんな言葉を言ったのは……
遥か昔の事だ
あれから何人かと交際した
華奢でなく細身でなく、仏頂面した自分を愛してくれる人は少なかった
誰と付き合っても上手く行かない……
恋人と仕事
どちらかを選べと言われたら……
何時も仕事を優先にして来た
書くのが好きだから……
「何やってるんだか……俺……」
野坂はやけ酒する為に……
冷蔵庫を開けた
そしてやけ酒を始めた
野坂の頭には何時も脇坂がいた
脇坂とどうなりたい訳じゃない
脇坂なら同じ時を刻んで行けるんじゃないかって何時も想っていた
「なぁ脇坂、この話……」
夢中になって読んでた話のツボを……
脇坂に求めて……
何度も脇坂とはあの日には戻れないのだと……と自分に言い聞かせていたのに……
脇坂……
こんな出逢い……
したくなかったよ………俺は……
再会が嬉しかった
それと同時にフラれた過去が野坂を苛んだ
脇坂を見れば想いは高校時代に還る
本当にタチが悪い‥‥
野坂は正気でいたくないから、美味しくもない酒に溺れた
本当はお酒は弱い
缶チューハイ1缶あれば泥酔出来る程に‥‥酒が弱かった
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