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出来損ない_1

side α この世に存在する全てのαが優秀とは限らない。 αの性を持ちながら、出来損ないだって存在する。 例えば、そう……この俺のような。 「この甘い匂い……お前Ωだろ?しかも発情期とはな。これじゃあ襲ってくださいと言っているようなもんだぜ?」 「やっ、違っ……俺、は…そんなんじゃ…」 「辛いか?安心しろよ、俺ぁ上手いぜ」 「や、やだ…やめろ……っ…さ、わんな…!」 曇天。 今朝のニュースでは台風が上陸すると言っていた。 その影響か道行く人は疎らだ。 おかげで耳に入る雑音は少なく、路地裏で行われていた厄介そうな状況を見つけ出してしまった訳だ。 「抵抗すんなよ。このαである俺が抱いてやるって言ってんだぜ、喜べよ?なあ!」 「な、にが………ざけんな…っ…」 「はっ、そんな息荒げて虚勢張ったって惨めなだけだぜ?発情期のΩなんて所詮セックス狂だ」 ……発情期、ね。 空を見上げた。そろそろ降り始めるだろう。 「たっぷり堪能させてもら――」 「――おい、やめろ」 まさに行為を始めようとした男の手が俺の声に反応して動きを止めた。 「あ?」 「仮にもαなら、そんなみっともない事をするな」 「んだと?………はっ、てめえもαか。なんだ、こいつを横取りしようってか?」 どう見てもチンピラ風体の男は、今にも殴り掛かってきそうな身構えで俺の方へと足を運ばせた。 「そんなくだらないことは止めろと言ってるんだ」 「るせんだよ!!!!」 ああ、ほら………案の定拳が飛んでくる。 まあ当たってやる気もないけどな。 動きの大きい男の攻撃を避けることは造作もない。 それに加えて男の腹を蹴りあげることだって朝飯前だ。 「痛っ……くっ、てめぇ……!」 「さっさと消えろ。分かるだろ?同じαでも俺とお前じゃ格が違う」 悔しげに歯を鳴らした男は、それでも敵わないと悟り路地裏から走り去っていく。 残されたのは俺と、地面に座り込む息を荒げた青年が一人。 俺が足を動かせば青年はビクリと肩を跳ねさせた。 「く、くるな…っ……アンタもαなんだろ……近付くな…!」 青年の背中は壁。 立ち上がる気力も残っていないのだろう。 怯えた目で威嚇するだけで精一杯のようだ。 青年の目の前にしゃがみ込み覗いた顔は、頬が上気し瞳は潤んでいた。 どうやら発情期で間違いないようだ。 「……薬はどうした?」 Ωなら抑制剤を持っているはずだ。 「……っ……ない……」 「つくづく面倒な奴だな」 わざとらしく溜め息を溢して、立ち上がり青年を見下げる。 「ここで誰かにヤられるのを待つか、俺と来るか…選ばせてやる」 「…ざけんな、……どーせアンタもαなんだ……連れてって、さっきの奴と同じ事するんだろ…!」 「しない」 「嘘つくなよ!」 「嘘じゃない。ヤるんだったら、アイツみたいにとっくに襲ってる。俺は、お前の発情期にあてられたりなんかしない」 「………な…んで…?」 「出来損ないのαだからだ」 見上げる顔にポツリと一滴の雨が落ちた。

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