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遅咲き_5

「や、別に何も……」 「そんな素振り見せて何もはないんじゃない?それっ――」 「――わっ、ちょっ、長谷さん!」 カウンター越しに伸びてきた手が俺の頭を掴んで項を探る動きをする。 こ、この人腕細いくせに力強っ……! 「あ、キスマーク発見!ふーん、イヤらしいことしたんだ?」 「ち、違う!これは、その、お守りって……」 「お守り?ああ、あのαがΩにするあれか………ん?でもあれって――」 と何か言いかけたところで長谷さんの身体はカウンターの中へと引き戻されて、俺から離れていく。 見れば長谷さんの首根っこを掴んでいるのは藍澤で、その顔は変わらず般若のようだ。 「いい加減にしろ。こんなんでも客だぞ」 こんなんでもって……立派な客だっての。 「ふふーん……藍澤くん、さては君」 二ヤついた長谷さんが隣の藍澤と目を合わせて、何やら二人にしか分からない無言のやり取りをしてるみたい。 「ねえ、良いの?この前の言葉、撤回しなくても?」 「………別に」 「本当に?だってあれってさ――」 「――うるさい。勝手にしろ」 「ふーん、素直じゃないね。ね?」 と最後だけ俺に問われても、何のやり取りなのか俺には全然分からない。 「んー…………司ぁ………眠くなった………」 末松さんは末松さんで眠たいと駄々を捏ねて、カウンターに突っ伏し始める始末。 「……はぁ……待ってろ。今上がるから」 「んー、へへ、司優しいなぁ……」 既に寝惚け半分の末松さんに藍澤は呆れて溜め息を落とすと店の奥へと消えていく。 その際に「余計なこと言うなよ」と長谷さんに釘を刺していった。 「なあ、長谷さんはこれがどう言うもんか知ってんの?」 項に手を当てながら長谷さんを見上げれば、当然だと笑う。 「もちろん。αならみんな知ってるよ」

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