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遅咲き_6

そんな口振りで言われたら訊かずにはいられない。 「これって何なの?」 「知りたい?」 「だから訊いてんじゃん」 「じゃあキスしてくれたら教えてあげる」 笑みを崩さない長谷さんの言葉は冗談なのか本気なのかよく分からない。 「それ冗談?」 「どう思う?ちなみに僕は君のことが気になってるんだけど」 これは……本気、なのかな……? 俺、長谷さんに何かしたっけ? 「俺、何かしたっけ?」 「うーん……そう言われると特に何も。理由なんてないよ、単純に気になってるって話」 「はぁ………」 「何でもかんでも理由付けすれば良いってものでもないだろう?」 それには確かに同意出来るけど……。 「君がまだ藍澤くんの番じゃないなら、口説いてみようと思うんだけどどう?」 「どうって……それ本人に訊く?」 「僕、割りと直球タイプなんだ」 意外でしょ?と問われて素直に頷くと楽しそうに笑われた。 「で、どうする?キスする?」 「え、マジなんだ?」 「マジだよ、本気」 カウンターに頬杖を付きながら俺を見下ろす目は笑っていそうで真理が読めやしない。 この人掴み所無さすぎて苦手………。 「やめとく」 「そう?残念。気が変わったら教えてね。僕はいつでも歓迎だよ」 「ははは、そりゃどーも」 「まあ、藍澤くんの言葉の意味そのままだけどね。それ、お守りなんだよ。ただし条件付きのね」 条件付き……と反復した俺に長谷さんは自身の唇に指先を当てた。 「知りたいなら――ね?」 「遠慮しまーす」 両手を上げて降参のポーズを取る頃、着替えを終えた藍澤が店の奥から姿を見せて、カウンターのこちら側へと回ってくる。 「おい、起きろ」 カウンターに突っ伏したままの末松さんを起こすも反応は薄い。 「んー……ねむぃ……」 「チッ………ほら立て」 盛大に舌打ちをした藍澤は末松さんの腕を肩に回して半ば無理矢理立たせ、引き摺るように店を出ていく。 まあ、何だかんだ優しいよな……やっぱ……。 「あ、俺も行かなきゃ。ご馳走さまでした」 代金をカウンターに置いて俺も店の入口へと向かう。 「ありがとうございました。あ、僕本気だから宜しくね」 念押しと背中に受けた言葉には曖昧に笑って返して、店を後にした。 ………やっぱ苦手だ、あの人。

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