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遅咲き_7
「つーかーさーぁ、ねむぃ……」
「いい加減自分の足で歩け。放り投げるぞ」
「ふへへ、そんなこと言ってぇ……司は優しいもん!」
そんなやり取りを二人の背中から眺めてると正直微妙な気持ちになる。
蟠りが解けたのは良いことだと思うし、昔馴染みなんだから仲が良いのも当然だと思う。
でもなんか………面白くない。
末松さん身体預けすぎだし、心なしか藍澤は嬉しそうな顔してるように見えるし……。
「嬉しいなぁ……こうやってまた昔みたいに話せて……」
「無駄口叩けるなら自分で歩け」
………藍澤、本当はまだ末松さんが好き、なのかな。
口振りから過去形だったし、終わった恋だと決めつけていたけど本当のところは分からない。
現に末松さんは今目の前にいて、藍澤の隣に並んで、触れられて………隔てていた見えない壁もなくなった。
いやでも……末松さん結婚するし、どのみち失恋ってやつか……。
………なんだろ、この気持ち。モヤモヤする。
言葉にしたいのに何と言っていいのか分からない。
吐き出したいのに喉につっかえて出てこない。
――藍澤は、どんな気持ちで末松さんに触れているんだろ。
訊きたいのに開けない口の代わりに背中に視線を注ぎながら心で問う。
そうしたら藍澤が背中越しに振り返るもんだから、心臓がドキッと跳ねた。
「やけに大人しいな。どうした?」
「え、いや別に何も………」
下手な返しになったと自分でも思う。
案の定、藍澤は怪訝な表情を浮かべて足を止めた。
「具合でも悪いんじゃないだろうな?」
「ぜ、ぜーんぜん!元気、元気!」
「…………………」
じっと見つめてくる視線に耐え兼ねて、自分も末松さんを支えようかと提案しつつ、二人と距離を縮める。
俺が末松さんへと手を伸ばすと、それより先に伸びてきた藍澤の指先が俺の目元に触れた。
「………また隈出来てるな」
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