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遅咲き_8
滑る指先の感触と熱くなる頬を感じる。
綺麗で真っ直ぐな瞳が俺を映すと、身体が動かなくなる。
やっぱ、綺麗な顔………モデルとか芸能人って言われても不思議じゃないよな。
「……今日はもう帰れ。帰って寝ろ」
「え、やだ!藍澤ん家行くもん。ついてく」
「顔色悪い。別に明日来れば良いだろ」
「やだ、行く。行きたい」
「お前な…人が心配してやってんのに……」
「だって!だって……今日全然喋れてないじゃん……」
バーでは殆どの時間を末松さんが独占して、藍澤と会話出来たのは二、三言。
いつもならこれでもかってぐらい喋り倒すのに…。
そっか、だからモヤモヤするんだ。いつもと違うから、だから……。
「もっとアンタと話したい………」
「…………………」
何も言わない藍澤の代わりに末松さんが項垂れながら「気持ち悪い……」と呟いた。
「司ぁ……吐きそ……」
「チッ………この馬鹿………」
呆れた溜め息をつきながら、藍澤は懐から何かを取り出すと俺に差し出した。
「これって………藍澤ん家の鍵じゃん……」
「先行って休んでろ。俺はコイツを送ってから帰る」
「え、でも…それなら俺も一緒に――」
「このまま真っ直ぐ自分の家に帰るか、俺の家に先に行くかの二択だ」
有無を言わさない口調に一度口を噤んでしまうと、次の言葉を発するのは難しい。
「……帰ったらいくらでも話してやるから、休んで待ってろ」
和らいだ口調で諭すように言われれば黙って鍵を受け取る他ない。
「わかった。……早く帰ってこなかったらエロ本探しちゃうから」
「……んな意味ねぇもんあるわけないだろ」
言われてみれば確かに。
吐きそうだと喚く末松さんを抱え直して、自分の家とは反対方向に足を進めた藍澤は背中越しにちゃんと休むようにと念を押してきた。
もしかして藍澤って過保護……?
でも幼馴染みが末松さんみたいなタイプだったら、ああなるのも頷ける……。
手のひらに握った鍵は冷たいはずなのに、不思議と温かく感じる。
「…鍵渡すとか、俺めっちゃ信用されてんのな。はは、何かくすぐったいかも」
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