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遅咲き_35
side Ω
温かくて、気持ちよくて、何も考えられない。
擦り寄れば更に優しく触れてくれて……。
嬉しくて、幸せで、俺はそれに身を委ねた。
そうだ。この前もこんな夢を見たっけ。
あの時はすぐに離れていってしまって、全然追い付けなくて……でも今はこうやって傍に居てくれる。
そっか。俺、また夢見てんだ……。
あれ?何で寝てんだっけ?
確か雨が降ってて、藍澤に傘を届けようとして……あ、そっか。変な男に追われてる郁弥と会って、それから……そうだ!助けなきゃ、郁弥を。今度は助けないと………!
微睡んでいた意識から覚醒すると身体が強張っていた。
「……やっぱ夢か」
と身体の力を抜いて、ふと違和感に気が付いた。
なんか身体動かしにくい……ってか捕まえられてる……?
それにこの目の前にある黒い壁は……、と視線をゆっくり上げていく。
辿り着いた先で見慣れた無愛想な顔と至近距離で目が合った。
「…………………」
「…………………」
「……………――うわっ!?なっ………え、ええ⁉」
「………うるさい。朝から騒ぐな。」
深くなる眉間のシワに反射的にごめんと呟いたけれど、状況が全く理解できない。
何がどーしてこうなったんだ?
藍澤のベッドで、そんでもって藍澤の腕の中で………いやいやいやちょっと意味分かんない。
と、とりあえず……。
「あの、離してもらっていいですかね………?」
「……………………」
む、無言…………怖い………せめて何か言ってくれよ……。
「お、おーい……聞いてる……?」
動く気配のない口の代わりに、布団の中から出てきた藍澤の手が俺の頬に触れた。
「熱は引いたな。身体の調子はどうだ?」
「え、特に……てかスッキリしてる気がする…」
「終わったみたいだな、発情期」
心なしか安堵した表情を見せた藍澤は、すぐに俺を解放するとベッドから抜け出す。
発情期………そっか。そうだった、俺発情期だったんだっけ。
「…あ!郁弥、郁弥は!?アイツ変な男に追われてて、それで――」
「落ち着け。一緒にいたΩだろ?アイツなら無事だ」
「そっか、良かった……。ごめん、俺あんまり覚えてないんだけど、アンタが助けてくれたんだよな?ありがとう」
藍澤の後を追うようにベッドから抜け出すと、思いの外足腰が立たなくて、ペタンと床に座り込んでしまった。
「…………あれ?」
「…………何してんだ?」
「いや、何か立てなくて…何でだろ?」
もう一度と力を入れてみるものの上手くいかない。
それを見かねたのか短い溜め息をついた藍澤が、俺の身体を抱えて上げて、ベッドへと戻される。
「休んでろ」
「……こう簡単に持ち上げられると同じ男として複雑だし軽くショック」
「言ってろ。飯出来たら呼んでやるから」
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