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遅咲き_41
「そうなの?この前陽翔のフェロモンも平気そうだったから、てっきり番なんだと思った」
「それは………アイツが、その………ちょっと変わってんだよ」
「そうなの?」
「そ。俺以外のΩのフェロモンも平気。だから俺が特別って訳じゃないよ。変わってんの、アイツ」
「へぇ…………」
郁弥の目は藍澤を追い掛ける。
「あの人………格好いいよね」
「ゲホッ……ゲホッ……は、はぁ?」
「大丈夫?」
「突然変なこと言うから…」
「え?そうかな?格好良くない?」
まさかそっちの話題になるとは思ってなかった…。
「まあαだし…見た目の良さは認めてる」
「中身も格好良かったよ。この前だって助けてくれたし、陽翔のこと軽々と抱いて帰ってくれたんだよ?」
「……いや軽々って割りと傷付くから………」
やめてくれと頭を抱える。
「アイツ、そんな性格よくないし……それより、郁弥の方は大丈夫だった?この前の男は何だったんだ?」
「ああ……うん…………」
陰る表情をした郁弥は、一度カクテルへと口付けて、重たい溜め息をつく。
それから寂しそうに笑みを溢した。
「彼氏なんだ。いやだった、かな……。あの後から連絡もないし、多分捨てられたんだと思う」
「彼氏って………あんなのが!?どう考えても強姦魔だったじゃん………こっちから願い下げだろ、あんな男」
「Ωの扱いなんて皆あんなもんだよ…」
グラスを掴む手にぎゅっと力が入ったのが目に映る。
「僕達はαの慰めものだもの」
伏せられた目に、やり場のない怒りが込み上げる。
「そんな事ない!αもΩも普通の人間なんだって、何も変わりないんだって、そう思ってるαだっている」
「……………」
「バース性なんかで人の価値は決まらない」
「陽翔………」
「…………って、受け売りだけど。でもこれはαがくれた言葉だから。だから、必ずしもあんな奴ばっかじゃないんだ」
もしかして、と上げられた郁弥の目がチラリと藍澤を見る。
「あの人?」
「…………まあ。」
「ふふ、やっぱり格好いいね。陽翔が懐くのも分かるなぁ」
「別に懐いてないし」
変わってないなぁ、と郁弥は笑う。
それから交わす会話の中で、時折郁弥の視線が藍澤を追っていることに気が付いて、少しだけ心臓が痛かった。
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